人の生きる力を感じる物語。そして、他人を助けようとしてるのに何もできない自分に無力感があったとしても、そこにいるだけで少しは力になれていると教えてくれる物語です。本作には、一見不可解な状況の2人の女の子が新宿の町で出会い、一日いちにちを生き延びる姿が描かれています。
主人公のキリエ(アイナ・ジ・エンド)は、歌は歌えるけれど、声が出ない問題を抱えています。物語は3つの時間軸で描かれ、彼女に何が起きたのかが徐々に紐解かれていきます。キリエは壮絶な人生を歩んでいるけれど、とても逞しい女性です。か弱く見えながらもポリシーを持って生き抜くキリエの姿に共感を覚えます。キリエの武器は歌で、キリエを演じるアイナ・ジ・エンドのパワフルでエモーショナルな声と表現力に圧倒されます。また、アイナ・ジ・エンドは6曲の劇中曲を手掛けており、その歌詞とメロディもキリエというキャラクターはもちろん、本作の世界観を形作っています。
絵画的なシーンと、若者の心の内を吐露する楽曲で彩られる本作は、観る者をあっという間に岩井俊二ワールドへ誘います。ただ美しいだけではなく残酷さがあるのも岩井俊二監督が描く物語の魅力。何を残酷と思うかという点も観る人によって異なるはずで、鑑賞後に他者と意見を交わすとおもしろそうです。岩井俊二、小林武史(音楽)、豪華キャストが集結して紡ぐ物語は、3時間の上映時間もあっという間。映画で、異世界に没入する感覚をぜひ味わってください。
複雑な心境になる展開もありながら、キャラクターと同じ状況で気まずくなりそうな関係性の方は稀だと思うので、デートで観てもオーケーでしょう。ただし、約3時間の上映時間なので、一方がハマらないとお互いに気を使うかも。誘う際にはどれくらい興味があるか見極めたほうが良さそうです。映画好きはもちろん、音楽映画なので、音楽好きカップルにもオススメです。
ティーンの皆さんはキリエや一条逸子(広瀬すず)の視点に立って等身大で観られそうです。過去とか未来にいろいろ考えることがあったとしても、今を一生懸命生きるキリエの姿を観て、何かしら刺激を受けられるところがあるかもしれません。思い通りにいかないことは必ずあるけれど、皆悩みながら生きている姿にも励まされると思います。
『キリエのうた』
2023年10月13日より全国公開
東映
公式サイト
©2023 Kyrie Film Band
TEXT by Myson
関連作:岩井俊二×小林武史による音楽映画
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『スワロウテイル』
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書籍「キリエのうた」岩井俊二著/文春文庫
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情報は2023年10月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。