本作は、子育ての綺麗事ではない実態を捉え、妻の声、夫の声の両方を発信しているドキュメンタリーです。まずは産後うつを経験したお母さん達の日常を映し出し、忙しい毎日の中でママ達がどんな気持ちになっているのかを伝えています。世の中の価値観からくる重圧や苦しみ、夫に対する不満、愛情をうまく子どもに伝えられないもどかしさなど、その感情はさまざまで、第三者が思っている以上に、世のお母さん達はプレッシャーを強く抱えているのがわかります。また、お母さん達の言葉からは、「子どもと一緒にいる=幸せ」「子どもといて1人じゃないから孤独なわけがない」「子どもと一日中遊んで楽しんでいる」という誤解と、そう思ってはいけないという罪悪感が、お母さんを窮屈にしているのかもしれないと気付かされます。そして、そういった苦しみが、子どもを愛しているかどうかに紐付けられてしまうことで、余計に誰にも相談できなくなっている現状も見えてきます。
さらに本作では夫の気持ちにもフォーカスしています。妻に認められたい気持ち、妻を助けたいけれど何をやったら良いのかわからず戸惑う気持ち、仕事だって家族のためであることを理解してもらいたい気持ちなどが吐露されていて、お父さんなりの苦悩も見えます。お母さん達からすれば、子どもの面倒だけで大変なのに大人の夫にまで気を使う余裕がないというのが本音かもしれませんが、本作を観ていると、“夫婦”で子育てをする上で、夫婦のコミュニケーションを向上させることも大切なんだと実感できます。人間を育てるわけですから、そりゃ大ごとだし、一筋縄ではいかないですよね。
本作では、夫婦の問題だけでなく、お母さん達が子どもだった頃のお話なども出てきて、親の影響が自分の子育てにどう影響するかにも迫っています。愛をどう伝えれば良いかわからずに大人になったお母さん達が苦悩しながら乗り越えていく姿、それを受ける子どもの素直な表情を見ていると、勇気も湧いてきます。子育てをいろいろな視点で捉えているので、今子育て中の方も、子育てが終わった方も、まだ経験がない人も共感できますよ。
カメラがあるので、微妙な空気が流れる夫婦の会話も大炎上まではいきませんが、ありのままが映っていて、客観視する良いきっかけにできそうです。男性の物事の見方、女性の物事の見方の違いもすごくよくわかるので、すれ違いが多くなっているカップルや夫婦は、これを機に自分達のコミュニケーションを見直してみるのも良いかもしれません。これから結婚するカップルや、子どもを持とうとしている夫婦で観て、自分達の子育てをシミュレーションするのも良いでしょう。
毎日忙しくて、怒っているばかりに見えるお母さん達の本音がわかります。お母さんが自分達のことを好きなのか不安になっている子ども達も登場しますが、なぜ気持ちがすれ違っているのかをお互いに知って、関係性が変わっていく様子が見られます。よその家と比べてしまうことがあるかもしれませんが、皆それぞれに抱えているものが違います。見た目の態度だけで判断せずに、いろいろな視点を持つ意味でも本作を観てみると良いですよ。
『ママをやめてもいいですか!?』
2020年2月29日より劇場公開/自主上映会&オンライン配信中
インディゴ・フィルムズ
公式サイト
TEXT by Myson