通常なら、連続“餓死”殺人事件というキーワードからサイコキラーなどが登場するのかなとイメージしてしまいますが、本作ではそれが社会問題と繋がっていて意外性があり、見応えがあります。展開を追っていく上で、この話がどうやって連続殺人事件に繋がっていくのだろうと考えながら観て、不可解な部分にこそ本作で取り上げている社会問題の解決の難しさがうかがえます。ネタバレになるので具体的には書きませんが、その背景にはいろいろな立場の人達の事情があり、それが複雑に絡み合って一筋縄ではいかない点で大きな葛藤を余儀なくされ、それぞれに尋常ではない心労があるのだなと伝わってきます。
また、事件を追うだけのストーリーではなく、大きな喪失を抱えた人達がいろいろな思いに苦しみながら日々を過ごしている様子も描かれており、この事件によってお互いの人生が交錯していくことで少しだけ前に進める希望を見出す姿には共感できます。
瀬々敬久監督のもと、佐藤健、阿部寛、清原果耶、倍賞美津子、吉岡秀隆、林遣都、永山瑛太、緒形直人といった錚々たる実力派キャストで作られており、リアリティも充分です。いつ何が起きてもおかしくない時代で生きる私達にとって他人事ではない問題を描いているので、まずはこれを機に本作で取り上げられている問題への関心が高まると良いなと思います。
正直かなり重い内容でロマンチックなムードになるような映画ではありませんが、私達が住む日本で起きている問題を描いているので、これから長く一緒にいようと考えているカップルは特に、こういった現実を映画で一緒に観ると、人生観、価値観を改めて考えるきっかけにできるのではないでしょうか。劇中でもそれぞれのキャラクターに違った背景や思いがあるのと同じで、2人の感想や意見も異なるかもしれませんが、意見を交わすことでお互いの価値観をもっと知ることができると思います。
キッズにはまだ難しい内容ですが、小学校高学年以上なら理解できると思います。劇中にも重要な役柄で子どもが登場するので、皆さんも同じ目線で観られるのではないでしょうか。本作で扱われている社会問題については、実際に皆さんの周りでも起こっていることです。今はその状況になっていなくても、そういった現実、社会の仕組みを知ることは無駄にはならないので、鑑賞後はそのことについて調べてみるのも良いと思います(ネタバレになるので敢えて具体的な名称は書かずにおきます)。
『護られなかった者たちへ』
2021年10月1日より全国公開
松竹
公式サイト
© 2021映画「護られなかった者たちへ」製作委員会
TEXT by Myson