1930年代から1940年代、ハリウッド黄金期と呼ばれる時代に、映画界では何が起きていたのか。本作は、アルコール依存症の脚本家ハーマン・J・マンキウィッツと、彼が脚本を書いた『市民ケーン』にまつわる実話に基づき、1930年代の映画界、財界、政界の繋がりを映し出しています。『市民ケーン』は当時の財界の超大物、ウィリアム・ランドルフ・ハーストをモデルにしていることで、物議を醸しました。そのため、劇場公開に漕ぎ着けるまでにさまざまな困難が立ちはだかりました。また、本作はハリウッド黄金期を代表する俳優オーソン・ウェルズが主演、監督を務めた映画で、脚本も表向きはオーソン・ウェルズが書いているということになっていました。マンクことハーマン・J・マンキウィッツ(ゲイリー・オールドマン)は、始め自分の名前をクレジットに入れないという条件で仕事を引き受けていましたが後に撤回。その後、表向きはオーソン・ウェルズと共同脚本となっていますが、実質はマンクが1人で書き上げたものだということも、本作で語られています。
こういった背景もとてもドラマチックですが、1番の見どころはマンクがどれだけ“筆”、つまりストーリーを書くことで社会と闘ってきたのかという点にあります。『市民ケーン』は今でも不朽の名作として親しまれ続けていますが、今では評価されている作品でも、マンクのような人達が自分の身を削り、自分の人生や生活を失う恐れのあるなかで挑戦してきたからこそ、この世に誕生してきたんですね。それを思うと、映画の価値を改めて実感させられます。全編モノクロで当時の映画を再現しているような作りにもすごくこだわりが見えて、デヴィッド・フィンチャー監督、ゲイリー・オールドマンなど、現代の映画人達の映画愛もヒシヒシと伝わってきます。万人向けの映画とは言い難いですが、映画好きにはぜひ観て欲しい1作です。予め映画『市民ケーン』を観ておくと、話についていきやすいので、予習をオススメします。
マンクと妻の関係も本作の見どころの1つで、奥さんの内助の功が素晴らしいです。夫の1番の理解者であり、縁の下の力持ちで、彼女がいたからこそ、彼は仕事を全うできたと思えます。奥さんはすごくいろいろなことを我慢して、目をつむってきたと思いますが、誰と一緒になれば幸せかは人それぞれ違うということの1つの例として観るのも良いと思います。そういう意味では、ウィリアム・ランドルフ・ハーストの愛人マリオン・デイヴィス(アマンダ・セイフライド)も別の例として観ることができそうです。
本作は15歳未満の未成年の視聴を推奨しないとされているので、せめて高校生になってから観ると良いですが、2時間を超える上映時間と、全編モノクロというところで、映画を観慣れてないティーンの皆さんにとっては、ちょっとハードルが高いのではと思います。映画をたくさん観て、映画史にも興味が出てきてから観たほうが、一層感動も増すと思うので、純粋に自分で観てみたいと思ったタイミングで観てください。映画作りに興味のあるティーンの皆さんは、逆に良い刺激を得られると思うので、チャレンジしてみても良いのでないでしょうか。
『Mank/マンク』
2020年12月4日よりNetflixにて配信中/11月20日より劇場公開
公式サイト
TEXT by Myson