格差社会、教育の必要性、経済的な豊かさと幸福の関係など、いろいろなエッセンスがギュッと詰まっていて、良い意味で一度観ただけでは咀嚼、消化仕切れません。最初に何度も観て、何年か経ってまた観ることで、主人公マーティンが見せてくれる世界をより一層肌で感じられるようになる気がします。
本作は、『野性の呼び声』など冒険小説で一世を風靡した作家ジャック・ロンドンの自伝的作品を映画化したもので、物語の舞台を原作の20世紀初頭のアメリカ西海岸オークランドからイタリアのナポリに移して描かれています。労働者階級として育ち、まともな教育を受けないまま大人になったマーティンは、あることがきっかけで良家の美しい令嬢エレナと出会います。彼は彼女に想いを寄せ、読書で心を通わせようと独学に励みますが、彼が努力をする過程で、社会に根づいている貧富の差が人間関係に何をもたらしているかがありありと見えてとても切なくなります。やがて彼が作家になると言い出すと、エレナを含めた上流階級の人達との溝はさらに深まり、無学な彼が作家になれるわけがないとする上流階級の人達の冷たい目が露わになっていきます。この先の展開は本編でご覧頂ければと思いますが、マーティンとエレナの恋愛が発展していくなかで、1つ解決したと思っても、次に別の問題が出てきて、育った環境、生きている世界が違うという現実を目の当たりにさせられます。これは時代や国を問わず普遍的なことだと思いますが、成功するためのプロセスや手段、生きていく上での優先順位が、最初から裕福な者とそうでない者とでは全然違っていて、そこを摺り合わせるのはとても大変です。貧しくても思いのままに生きていたマーティンは幸せそうでしたが、後のマーティンが幸せに見えないのがまた皮肉で、野性の動物が檻に入れられて覇気を失っていく光景を見ているかのようです。
新型コロナウィルス感染症の影響で格差社会がさらに深刻化し、この状況下では経済的な成功に目が行きがちですが、やはりお金があればすべて良しということではないと本作は教えてくれます。ではどうすれば良いのかとなると、援助が受けられれば良いという単純なものではないことも描かれていて、そこに何が必要なのかを考えることも、本作を観る醍醐味なのではと感じます。社会問題を投影している作品ですが、悲恋の物語としても楽しめるので、いろいろな視点で観てください。
マーティンとエレナのように何らかの格差があるカップルには身につまされる内容なので、デートを楽しむというムードにはならないかも知れませんが、普段その問題から目を背けているようなら、本作を対話のきっかけにするのもアリでしょう。今は気楽に付き合っていても、結婚となると考えなければいけないことが出てくるので、結婚を意識しているカップルも話を深める前に客観的な視点を得るために観ると良さそうです。
生きていく上で教育がいかに大事かということを、ひしひしと感じられると思います。機知に富んだセリフながら一瞬「??」となる一見難しい言い回しがたびたび出てくるし、後半の展開はまだピンとこないかも知れませんが、中学生以上ならついていけると思います。今気付くと今後の人生でためになることが描かれているので、ぜひ何かしら気付きを得て欲しいと思います。
『マーティン・エデン』
2020年9月18日より全国順次公開
ミモザフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson