2001年、“9.11(アメリカ同時多発テロ)”が起きた際に、テロを起こしたメンバーだと疑われアメリカ政府に拘束されたモハメドゥ・ウルド・スラヒ。本作は、検閲によって数千箇所の黒塗りを入れられた彼の手記を基に映画化したものです。彼の手記はベストセラーになり世界中で翻訳されています。原作をご存じの方は別として、まだ情報をあまり入れていない方はぜひそのまま本編を観てみてください。彼とアメリカ政府、どちらが嘘をついているのか見えない状況で、彼を弁護する側と同じ目線を体感できると思います。
真相は映画でご覧いただくとして、本当に信じられないやり取りが多くあり、観ているだけでも恐ろしくなります。その行為そのものも恐ろしいですが、過ちを犯していてもそのことを平然と正当化できてしまう人間が何人もいることに唖然とします。でも一方で9.11で多くの方の命が失い、残された方々がその怒りの矛先を見つけなければやっていけない心情もあるのは当然だと思います。だからこそ、真犯人を見つけ出して裁こうとしても、諸事情が絡み合って複雑化してしまい、本来の目的が失われ、法が機能しなくなる。そんな危険な現実を本作は物語っています。さらに、ずっと負の連鎖が起きているのだということにも改めて気付かされ、信仰を正しく重んじる人達の誠実で寛容な姿勢には、本来の宗教の力と意味を実感させられます。
社会問題を提起する役割を大きく担う本作ですが、エンタテインメント性も存分にあります。ジョディ・フォスター、ベネディクト・カンバーバッチ、タハール・ラヒム、シャイリーン・ウッドリー、ザッカリー・リーヴァイといった実力派俳優が勢揃いしているのも魅力。個人的にはジョディ・フォスターのはまり役を観られてゾクゾクしました。カンバーバッチとの掛け合いにも要注目です。
ロマンチックな展開はありませんが、見応えは抜群です。初デートや交際が浅いカップルは逆にこういうタイプの映画のほうが、気まずい、恥ずかしいシーンなどにドギマギすることもなく純粋に映画を楽しめて、鑑賞後の会話のネタも見つけやすいのではないでしょうか。相手が社会問題に関心のある方なら特に誘ってみると良いでしょう。
皆さんは社会科の授業などでアメリカ同時多発テロについて学んでいると思います。アメリカ同時多発テロやイラク戦争についての映画は多種多様にあり、本作もその1つと言えますが、歴史的背景をさまざまな角度から観られるので、ぜひ観てみてください。そして歴史の勉強としてだけでなく、人としての在り方、社会の在り方についても考えるきっかけにできるでしょう。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』
2021年10月29日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
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TEXT by Myson
- イイ俳優セレクション/ザッカリー・リーヴァイ
- イイ俳優セレクション/シャイリーン・ウッドリー(後日UP)
- イイ俳優セレクション/ジョディ・フォスター(後日UP)
- イイ俳優セレクション/タハール・ラヒム
- イイ俳優セレクション/ドゥニ・メノーシェ
- イイ俳優セレクション/ベネディクト・カンバーバッチ