REVIEW
トッド・ヘインズ監督の指揮のもと、ナタリー・ポートマン、ジュリアン・ムーアが共演する本作は、1996年に実際に起きた通称 “メイ・ディセンバー事件”をモチーフにしているものの、描いているのは当事者のその後の姿です。ちなみに映画公式資料によると、“メイ・ディセンバー”とは「親子ほど年が離れたカップルという意味の慣用表現」だそうです。実際の“メイ・ディセンバー事件”では、34歳の教師メアリー・ケイ・ルトーノーが、家族がいながら当時12歳だったヴィリ・フアラアウと不倫をし、1997年に発覚後、懲役7年の実刑判決を受けました。当時メアリーはヴィリとの子どもを身ごもっており、服役中に出産。1999年に夫と正式に離婚し出所した後、2005年にヴィリと結婚しましたが、2018年ヴィリの申請により離婚。メアリーは2020年に末期がんで亡くなったとのことです。なお、ケイト・ブランシェット主演の『あるスキャンダルの覚書』はこの事件をモデルに映画化された作品です。
本作のストーリーは、事件から何年も経った後、事件が映画化されることになり、主演を務めるエリザベス(ナタリー・ポートマン)が役作りの取材のために、当事者であるグレイシー(ジュリアン・ムーア)とジョー(チャールズ・メルトン)の家に訪れるところから始まります。そして、エリザベスがグレイシーとジョーの生活に入り込んだことで静かに波が立ち始めます。グレイシーとジョーは一見穏やかに過ごしているようでいて、それぞれの苦悩が垣間見えてきます。そこに割って入っているエリザベスの存在は、好奇の目を輝かせる大衆の象徴のように映ります。
セリフも秀逸で、エリザベスの深層心理が漏れてしまうシーンがあります。人が理解し難い出来事を見聞きした時、真相を知りたくなるのは自然です。ただ、エリザベスの言動を観ていると、娯楽で溢れている現代社会で、人の感覚はおかしくなっているのかもしれないことにハッとさせられます。だから、エリザベスの視点でグレイシーとジョーを観ていた場合、“部外者”として観ていた自分自身の狂気をあぶり出され、偽善を暴かれたような居心地の悪さを感じるかもしれません。私の場合は、グレイシーとジョーの関係が純愛だったのかどうかを読み解こうとしていた自分がエリザベスと同じだと気付かされると同時に、自分の歪んだ好奇心に気付かされたという感覚を味わいました。だからこそ、ラストのエリザベスが滑稽に映る様子にすごく辛辣なメッセージがあるように思います。とにかく部外者のつもりで観ても心情を掻き乱されるストーリーです。ある意味、強烈な映画体験ができる作品です。
デート向き映画判定
心がざわつくストーリーなので、デートには不向きでしょう。キャラクター達の心情について想像を掻き立てられるので、見入ってしまうと思います。1人でじっくり観るか、鑑賞後に気を使わずに感想を語れる友達と行くのが良いのではないでしょうか。本作では年の差が大きなテーマとなっていながら、年の差がなくても、今の自分達の関係に何か思うところがある方が観ると、良くも悪くも何らかの影響を受けるかもしれません。
キッズ&ティーン向き映画判定
R-15なので15歳未満の方は観られません。ティーンの目線で本作を観ると、かなり複雑な心境になると思います。恋愛感情が芽生えてくる時期だからこそ、ジョーの気持ちを等身大で理解できる部分もあるかもしれません。映画で正しい答えが提示されているわけではないのと同じく、最後は自分で自分の気持ちを見つけるしかありません。自分に正直に、その感情を大事にしてください。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
2024年7月12日より全国公開
R-15+
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
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TEXT by Myson
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情報は2024年7月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。