自分で体験したわけではないのに、すごく自然にすとーんと心に響いてくるストーリーで、私達の誰もが家族とこういった経験を日々しているという感覚で共感できる作品です。物語の舞台は1980年代のアーカンソー州(アメリカ)、主人公は韓国系移民の一家です。農業で成功することを夢見るジェイコブは、妻のモニカに詳細を話さずに広大な土地とオンボロのトレーラーハウスを買い、家族はそこに引っ越してきます。限られた資金を元手にジェイコブは農業を始めますが、苦難だらけで家計は火の車。まだ幼い息子のデビッドには持病があり、心配は尽きません。物語はこの4人家族に祖母が加わり進行していきます。
経済的に余裕がないにも関わらず、大きな夢に挑む父、現実的に明日の生活の心配をする母、家族の様子を静かに見つめる長女、まだまだやんちゃ盛りの長男、娘一家を助けようと明るく気丈に振る舞う祖母…彼らはどこにでもいる家族で、どこにでもありそうなストーリーなのですが、一日いちにちに起こる些細な出来事が丁寧に描かれていて、私達が忙殺される毎日のなかで見過ごしている大事なことに目を向けさせてくれます。辛いことがある一方で、デビッドの可愛い一面に癒されたり、他にも孫と祖母とのやり取りが物語のアクセントとなって、後の展開にも影響してくる構成も見事です。さらに風変わりな地元民ポールの存在もスパイスになっていて、見知らぬ土地にやってきて地元に馴染めないでいるジェイコブ一家と、地元では浮いた存在になっているポールとの関係性にも、私達の身近にある人間関係がリアルに投影されていて、本当の意味で自分達の棲み家を見つけてそこに根づくまでの難しさを表現しています。生きていれば良いことも悪いこともあるけれど、家族がいることの大切さ、家族がいることで頑張れるということを実感させてくれる本作。絶望だけで終わらないストーリーは、今の時代の私達にエールをくれます。
大人カップルには特にデートでもぜひ観て欲しい一作です。恋人として付き合っているうちは気楽でも、家族としてずっとこの先も生活を共にするとなると、話は別。ジェイコブとモニカのやり取りはすごくリアルで、今後一緒に住もうとしているカップルや結婚を考えているカップルには参考になる部分があるでしょう。あとはジェイコブを『ウォーキング・デッド(以下、TWD)』で人気を博したスティーヴン・ユァンが演じているので、TWDファンのカップルにもオススメです。
主人公一家の日常が淡々と描かれていくなかにドラマチックな面が見える作品なので、どちらかというと大人向けの作品です。ただティーンなら自分の家族を一歩引いて見ることも増えてくると思うので、他の家族ってどんなのかなと思いながら観ると、いろいろと気付くこともあるでしょう。大人とは違う目線で、自由に観てみてください。
『ミナリ』
2021年3月19日より全国公開
ギャガ
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TEXT by Myson