本人は知らない因縁がある千紗(広瀬すず)と直達(大西利空)、2人の運命が交錯するストーリー。高校生の直達は、学校に通いやすい叔父の家に下宿することにします。叔父の家はシェアハウスで、他に同居人が3人います。その中の1人、千紗はどこかミステリアスでなかなか笑顔を見せません。そして、ある事がきっかけで、直達と千紗の親に隠された過去があることが発覚します。その後2人が親に対して抱く複雑な気持ちとどう向き合うかというところが物語の肝になっています。
2人の関係はとても複雑ながら、本人達に責任はありません。でも、2人とも親同士の関係を知り、苦しむことになります。自分達にはどうしようもないことで苦しんでいるからこそ、2人がもがく姿が切なくて、同時に2人の人間味、優しさが滲み出て共感できます。また、直達と千紗は性格的にお互い補い合う部分があるからこそ、化学反応を起こし、運命を変えていきます。そのバランスが絶妙です。
直達、千紗それぞれが葛藤する姿に、観る側も自分を重ねて観られるところがあるでしょう。彼等と同じ状況ではないとしても、誰もが日頃抱える不条理との向き合い方を振り返りながら観ることができます。そこには、逃げられない辛い気持ちとの折り合い方を学べる部分もあるかもしれません。
内容がそこそこシリアスなので、ウキウキしたデートのテンションを保ちたい場合には不向きでしょう。ただ、それぞれのキャラクターを観てどう感じるかというところに、その人の物事の捉え方が表れそうです。そういう意味では一緒に観て感想を述べ合うと多少相性がわかるかもしれません。
親同士の過去を巡って主人公達が苦しむストーリーなので、子ども目線で観るとかなり複雑な心境になると思います。一方で、恋愛に関心が出てきたティーンの皆さんは、直達や同級生とのやり取りを観て、初めて感じる捉えようのない感情の正体を客観視できるのではないでしょうか。大人の事情までは理解できなくても、恋愛って何だろうと考えるきっかけにはなりそうです。
『水は海に向かって流れる』
2023年6月9日より全国公開
ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
©2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社
TEXT by Myson