この物語は、主人公の川島いづみが大金の入った財布を拾ったところから始まります。私達の日常でもこういったことは普通にあるので、彼女が欲にかられてしまうのではないかなどとリアルに想像できて、観る側もザワザワした気持ちになります。そして、普通ならすぐに交番に届けますが、いづみは財布の持ち主に興味を持ち、財布に入っていた身分証明書を頼りに持ち主の背景を膨らませていきます。このようなシンプルな設定だけで物語の世界に観る者を自然に引き込むところが、まず本作の魅力と言えるでしょう。さらに、いづみの行動を見ているといかにも好奇心旺盛な女子高生という感じがしますが、いづみはこのお金を自分のものにしようというわけではないからこそ、予想外の展開を巻き起こします。そこへいづみの友達、蓮実と薫が加わって、異なるタイプの女子高生達が同じくこの財布に興味を持つことで、彼女達が日々無意識に体験しているある種のアドベンチャーを描いている点が観ていて微笑ましいです。
高校生の頃って、半分大人になっていながらまだ子どもで、社会や人を見る目もまだ未熟です。でも、ピュアな部分があるからこそ、それぞれ友達が抱える事情や思いなどにも素直に反応して、そういったところは主人公と同世代の方が観れば共感するだろうし、年配の方が観ても懐かしい感覚が蘇ってくると思います。個人的にはいづみとその友達の蓮実と薫の関係が本当に仲が良いのか、女子特有の小さな群れでしかないのかが気になりましたが、離れて眺めて見ると、女同士ってこういう風に見えるのかと思えるシーンも印象的でした。いづみが短い間で大きく成長する姿を観て、青春の酸いも甘いも味わってください。
恋愛関係が描かれている部分もありますが、高校生達の清々しい関係なので、デートで観て気まずいということはないでしょう。主人公と同世代のカップルは、親近感を持って観られるでしょうし、大人カップルが観れば、お互いの青春時代の思い出を語るきっかけにもできそうです。思い出話で相手が辿ってきた道や価値観も少し知ることができるので、交際ホヤホヤカップルが観るのも良いですね。
友達との関係や憧れの人との関係など、皆さんにとって身近な内容なので等身大で観られると思います。いづみ達はお互いに相手に遠慮がなく、思ったことをぶつけ合います。一見すごくわがままに思えますが、若いうちはこれくらい元気なほうが良いのかもしれません。日常の中には腑に落ちないことが多々ありますが、いづみのようにいろいろやってみることで周囲の人の気持ちを知るきっかけにもなります。そんなところを本作から感じ取ってもらえれば嬉しいです。
『ももいろそらを』
2021年6月18日より全国順次公開
フルモテルモ
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TEXT by Myson