監督のマリヤム・トゥザニが過去に家族で世話をした未婚の妊婦との思い出を基に作り上げた本作。主人公は、臨月のお腹を抱えながらカサブランカの街をさまようサミアと、そんなサミアを家に招き入れるパン屋の女性店主アブラです。大きなお腹を抱える妊婦が1人で街をさまようなんて…と思いますが、その理由としてイスラーム社会で未婚の母がタブー視されていることが根底にあります。日本だったらあり得ない現実に驚かされますが、本作はそんなイスラーム社会に対して一石を投じる作品となっています。
また、未婚の母であるサミアに対し、アブラにも娘のワルダがいて、2人の母親の物語であるという点に関してはどんな人でも共感しながら観られると思います。最初は、サミアもアブラも心を閉ざしているので、観ていてもどかしさがありますが、ワルダが仲介役となり、2人の距離感が次第に縮まっていく様子にほっこりします。
本作はモロッコ映画として日本で初公開する作品です。イスラーム社会の現実を知ることで、日本での今の暮らしを見つめ直す良い機会にもなるのではないでしょうか。年齢や性別問わず多くの人に観て欲しい1作です。
気まずくなるようなシーンはありませんが、社会的なメッセージもある作品なので、初デートで観る場合は事前にどんな内容の作品なのか相手に教えた上で観てください。また、性格も境遇も違う2人の母親の姿を観て、親になることの偉大さも感じられると思います。これを機にお互いの両親についてや、将来自分達が親になることについて話し合うきっかけにもなりそうです。
キッズの場合はワルダ目線で観られますが、母親達の心情を深く理解するためには中学生くらいになってから観ることをオススメします。ティーンの場合は、それぞれの人物がどんな状況に置かれていて、どんな感情なのか想像しながら観てください。本作ではイスラーム社会の現状の一部が映し出されていますが、他にはどんなことがあるのか自分で調べてみるのも良い勉強になると思います。
『モロッコ、彼女たちの朝』
2021年8月13日より全国公開
ロングライド
公式サイト
© Ali n’ Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions
TEXT by Shamy