REVIEW
民間人であろう女性に「vs.ジョージ・W・ブッシュ」とついたタイトルだけ見ると、どういうことなのか想像がつきませんよね。でも、ある意味タイトルの通りのストーリーなんです。本作は実話を基に描かれています。
主人公は、クルナス家の母ラビエ。物語の舞台は2001年、9月11日にアメリカ同時多発テロが起きた1カ月後のブレーメン(ドイツ)です。トルコ移民のラビエ(メルテム・カプタン)は、ある日、長男のムラートが旅先のパキスタンでタリバンの一員だと疑われて拘束されたことを知ります。ラビエは何とか息子を救い出そうと奔走しますが、警察や国に助けを求めてもまともに相手にされません。そんななか、やっと協力してくれる弁護士ベルンハルト(アレクサンダー・シェアー)に出会い、やっとの思いで息子の居場所を突き止めたものの、キューバのグアンタナモ湾にある米軍基地の収容所に不当に収監されていて、ブッシュ大統領を相手に訴訟を起こすことになります。
不当な収監なら息子はすぐに帰国できるだろうと思いきや、驚くほど長期間、ラビエと弁護士のベルンハルトは闘います。息子が安全かどうかもわからないまま、どんどん日が経ち、下の息子2人はどんどん成長し、時間の流れがハッキリ見えるだけに家族の辛さが伝わってきます。だから描き方によってはすごく悲壮感が漂う重い映画になってもおかしくありません。でも、ラビエは本当に明るくて優しくて愛嬌があり、そこに豪快さも加わって、カラッとエネルギッシュな作品になっています。息子を心配し不安でいっぱいな気持ちを抱えながらも、車の飛ばしぶりや、訪問先の弁護士事務所で全く遠慮なくコーラを要求したり、嬉しい時は美味しい料理やおやつを振る舞ったり、天真爛漫で我が道をゆくラビエを観ていると逆にこちらが元気をもらえます。ラビエとベルンハルトが“戦友”として絆を深めていく様子にも心が温まります。社会問題を知ると同時に、母の愛の大きさと、1人の素敵な女性の生き様をご覧ください。
デート向き映画判定
かなり長い期間、長男奪還のためにラビエが奮闘するので、夫婦間で考えの相違も見えてきます。いなくなった息子も大事だし、家にいる息子も大事。お互いが何を最優先するかで意見がぶつかる部分は、状況が違えど夫婦間でたまに経験するやり取りに似ていて感情移入できると思います。最近夫婦の踏み込んだ会話がなくなったという方は、敢えてきっかけとして一緒に観てはどうでしょうか。
キッズ&ティーン向き映画判定
ラビエには3人の息子がいるなかで、皆さんは恐らく下の2人の息子の目線から、大人の奮闘を観る感覚になるのではないでしょうか。長男を救うためにお母さんは出かけることが多くなり、いつものように家事ができなくなったり、不在がちになります。状況はことなるとはいえ、両親ともに働いている家庭なら、少し近い感覚で観られるところもあると思います。家で待つ息子と母ラビエのやり取りも見どころですよ。
『ミセス・クルナス vs.ジョージ・W・ブッシュ』
2024年5月3日より全国順次公開
ザジフィルムズ
公式サイト
© 2022 Pandora Film Produktion GmbH, Iskremas Filmproduktion GmbH, Cinéma Defacto, Norddeutscher Rundfunk, Arte France Cinéma
TEXT by Myson
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情報は2024年5月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。