物語の舞台は1990年代。作家を夢見るジョアンナは少しでも自分の夢へと近づける職場を求めて、はるばるニューヨークへやってきます。そして彼女は幸運なことに、老舗出版エージェンシーで編集アシスタントとして働き始めます。本作はジョアンナ・ラコフの自叙伝「サリンジャーと過ごした日々」を原作としており、ジョアンナがこの自叙伝に綴った、出版エージェンシーで過ごした日々や当時の人物をモデルに物語が作られています。
ここで原作のタイトルを見て、おやっと思われた方もいるでしょう。なぜなら『ライ麦畑でつかまえて』などの著書で知られるJ.D.サリンジャーは、後世を人里離れたところで全く人と会わずに過ごしていたからです。私は以前からサリンジャーにとても興味があり、彼にまつわる映画も複数あるので一通り観てきました。それらの作品ではサリンジャーの気難しい側面を描いたものが多い印象でしたが、本作では違った一面を観ることができる点が魅力です。
また、本作でジョアンナが務める出版エージェンシーは、1929年に設立された“ハロルド・オーバー・アソシエイツ”とされていて、このエージェンシーはサリンジャーの他にアガサ・クリスティ、ウィリアム・フォークナー、F・スコット・フィッツジェラルドなど名だたる作家の作品を手掛けていました(公式サイトより)。劇中でも歴史に名を残すベストセラー作家達の名前が飛び交い、そのうちのある作家はユニークな形で登場したり、読書好きや作家自身に興味を持つ人にはたまらない要素が詰まっています。
そして、自分の夢に近い場所にいるようでいて実際は夢に向かってやるべきことをやれているのかわからず焦るジョアンナの気持ちにもすごく共感できます。彼女が日々の中で何を感じ、何に迷い、何に刺激を受けるのか、最後にどんな結論を出すのか、今夢を追いかけながらも自信をなくしている方はぜひ観てみてください。
夢を追いかけるジョアンナが自分を振り返る上で、恋愛がとても重要な要素として描かれています。パートナーはある意味その時の自分を映す鏡のような役割を果たしていることに気付けるでしょう。今隣にいる人を好きかどうかということも重要ですが、その人と一緒にいる自分が好きかどうかも重要であるとわかるはず。それがわかってしまうと怖いという方は、1人で観に行って、心を整理しましょう。
ティーンの皆さんはだんだん具体的にどんな仕事がしたいかイメージするようになると思います。業界で捉えると同じだけれど、その中にある仕事は千差万別です。本作に登場するジョアンナは作家になるのが夢でそれが最初から最後までぶれませんが、それが正解か不正解かは人それぞれです。ジョアンナのように夢に近づける仕事に就いてみて、「やっぱり(最初に思っていたほうではなく)こっちのほうが良いかも」と考えが変わることは当然あります。自分に合った仕事って何だろうと考えるシミュレーションに本作を観るのもオススメです。
『マイ・ニューヨーク・ダイアリー』
2022年5月6日より全国公開
ビターズ・エンド
公式サイト
9232-2437 Québec Inc – Parallel Films (Salinger) Dac © 2020 All rights reserved.
TEXT by Myson
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