タイトルから熱血先生のお話かと思いきや、中年の危機、大人の燃え尽き症候群を描いています。野球部の顧問と生徒とくれば、顧問の教師が問題児を更正して、強いチームになっていくというような内容が定番ですが、本作は生徒をきっかけに先生が変わっていくという内容。堤真一が演じる主人公に影響を及ぼす生徒のキャラクターがとてもリアルで、いわゆる根っからの不良というわけではなく、才能がありながら、気持ちがついていかない性格で、ある意味正論だけれど、屁理屈で大人に反論してくるようなどこにでもいるようなタイプというところが逆に本作を個性的なものにしています。大人の理想論が通じなくなってくる、思春期の生徒にどう対処すれば良いのか。これは教師と生徒という立場に限らず、親子関係や、上司と部下という立場にも通じる部分がありますが、突き放すべきか、もっともっと強引に踏み込むべきか、とても難しい問題だと思います。この生徒だけをどうにかするのではなく、他の生徒のことも合わせて考えて、一人ひとりに合ったやり方で接しているつもりでも、意図した通りに通じているとは限りません。これはどちらが良い、悪いということではなく、人間関係にはこういうケースが絶対にあって、それをやり直すきっかけがいつかやってくるかも知れないという希望も込められているように思います。でも良い意味で、希望的な展開を膨らませ過ぎることなく、とてもリアルに描いているところも共感できて、大きなことを成し遂げるかどうかよりも、本当は心を通じ合わせたかった2人が再会した時にどんな化学反応を起こすのかを軸においている点で、大人の“こうでなければいけない”という頭を柔らかくしてくれる部分もあります。子どもが大人に期待しているところって、そういうことなんだなという点にも気付かされる内容で、大人こそ感受性を豊かにしなければと思わせてくれる作品です。
50代の男性を主人公にした、昔生徒だった青年とのお話で、しんみりとしたテンションで、特別デート向きというわけではありませんが、誰でも共感できるところはあるので、デートで観ても問題ないでしょう。相手や自分が、すごく夢中になっていたことがあるのに急にやる気が失せて活気がなくなっているとしたら、本作を一緒に観に行って、心のうちを話すだけでも癒されると思います。
「大人は綺麗事ばかり言う」と思ったり、「なんで自分だけ」と他の人と比較して、大人の態度を理解できない時がありますよね。大人は皆さんより長く生きていて知っていること、経験していることも多いですが、だからこそ余計にわからなくなっていること、頭が堅くなっていることもあります。本作は大人の視点を少し変えるきっかけになるようなストーリーなので、親子で観て語り合うきっかけにすると、普段伝え切れていないことが少し伝わるかも知れません。
『泣くな赤鬼』
2019年6月14日より全国公開
KADOKAWA
公式サイト
©2019「泣くな赤鬼」製作委員会
TEXT by Myson