REVIEW
ナポレオンは世界史の授業で習うので、馴染み深い歴史上の人物という印象でありながら、本作を観てみると意外に知らない一面が多かったことに気付きます。本作はナポレオン(ホアキン・フェニックス)と最初の妻ジョセフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)の物語を中心に描いている点で、一人の人間としてのナポレオンの知られざる一面を見られます。想像以上にラブストーリーの要素があり、ジョセフィーヌへの思いの強さから、ナポレオンはとにかく一途でピュアな人として映ります。そして、ジョセフィーヌは強い女性であり、ナポレオンの陰の立役者として彼女に光を当てたストーリーともいえます。本作で描かれているように、この時代にナポレオンが本当に女性の役割、存在の大きさに気付いていたとすれば、やっぱりナポレオンは大局を見ることができる人物だったといえそうです。
人を一瞬にして取り込み、兵士を鼓舞できるナポレオンの姿に英雄と策士の両面が見えます。本作のキャッチコピーは「英雄と呼ばれる一方で、悪魔と恐れられた男」とある点については、彼の判断はすべてフランスのためで一切ブレることがなく、フランスを守るためならどんな犠牲もいとわない厳しい判断を迷いなく下す姿が時に英雄として映り、時に悪魔として映るのだと感じます。味方にすると心強く、敵にすると怖い存在。でも、とても人間臭い人だからこそ、惹かれるものがあります。ナポレオンは、強さと弱さ、聡明さと愚かさ、あらゆる場面で相反する側面を見せます。そんなナポレオンの複雑なキャラクターをホアキン・フェニックスが見事に演じています。
ナポレオンの戦術も見どころで、戦闘シーンは生々しさがあります。真正面から銃口や槍に向かって歩いて行く兵士達の姿に改めて戦争の狂気を感じると共に、その戦争を指揮するナポレオンの狂気も感じます。リドリー・スコット監督とホアキン・フェニックスが『グラディエーター』以来23年ぶりに再タッグを組んだ本作は、見どころが詰まっておりテンポも良く上映時間の長さを感じさせません。ぜひ、本作から溢れ出す気迫を大きなスクリーンでご堪能ください。
国を守る立場にあるナポレオンの恋愛には、ロマンチックな展開もありつつ、切ない展開もあります。“夫婦の務め”に関わる部分ではかなり現実的な問題が描かれていて、現代に生きる夫婦にとっても生々しく感じると思います。遠い昔のフランスの皇帝のお話なので、距離を置いて観られそうではありつつも、観る方によっては自分達の状況とリンクさせて観てしまう可能性はあります。そういう点から考えると、気楽に交際中のカップルのほうが気軽に観られそうです。
本作をきっかけにナポレオンという人物に興味が湧くと思います。英雄的立場にあったり、国を追放されたり、ナポレオンの人生は波瀾万丈です。普通ならめげそうなところを、ナポレオンはフランスのためならなりふり構わず試練に立ち向かいます。なぜ、そこまでできるのかを本作で観察することは有意義だと思います。見応えが充分な作品なので純粋に映画を楽しめるのはもちろん、世界史の勉強への興味にも繋がれば一石二鳥ですね。
『ナポレオン』
2023年12月1日より全国公開
PG-12
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト
TEXT by Myson
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情報は2023年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。