あ〜怖い!ホラーではないし、世の中が一瞬にして混沌とした世界に変わっていく様子を淡々と映しているだけなのに、これと同じことがどこかで起きているとリアルに感じてゾッとします。まず、冒頭で意味深なシーンが並べられ、何が起こっているのかわからない不安を観る者に与えます。次に物語の舞台は豪邸へ移り、そこで行われている結婚式では和やかで幸せそうな空気が流れています。そして、ある出来事をきっかけに、メインキャラクターの人となりが見えてくるのですが、突然物語が急展開を見せます。目の前の世界が一瞬にして秩序を失い、そこには常識もなければ良心もない世界が広がります。だから、素直にキャラクターそれぞれを観察して物語を追っていたら、「さっきのあのやり取りは何だったんだ!」と、見事にフェイントにかけられてしまうでしょう。本作は徹底的に絶望を見せつける点で、かなりのパンチ力があります。
“新しい世界”では、欲望に駆られた野蛮な人間達が武力によって権力をかざし、常識では考えられない愚行が蔓延します。貧困層vs.富裕層という構図にも見えますが、そうとも言い切れない状況になっていくのがさらに恐ろしくて、弱肉強食にもいろいろな形があることがわかります。また、1人が絶対的に大きな権力を握っているというよりも、身分や立場を問わず、皆が少しずつ腐った部分を持っていることで、それが幾重にも重なり国を完全に蝕んでしまうという状況が巧みに表現されています。これは、日本にいる私達にとっても他人事とはいえません。今、コロナ禍ということもあり、皆がさまざまなことでストレスを溜めています。それが膿となって、こういう状況を生まないように、反面教師的に多くの方に観て欲しいです。
ズドーンと重い気持ちになるので、ウキウキして過ごしたいデートの日には不向きです。ただ、観終わった後に誰かと話したくなるストーリーなので、映画が好きなカップル、議論好きのカップルなら、デートで観るのもアリなのではないでしょうか。ただし、あからさまに映らないまでも、想像するとゾッとするシーンや痛々しいシーンはいくつかあるので、元気な時に観ることをオススメします。
人に敬意を払えないこと、人を信頼できないことが、どういう結果を生むのかを想像させられるストーリーです。食うか食われるかのどちら側になるかということではなく、どちらの側も生まないためにできることはないか、本作を観て考えることは有意義だと思います。
『ニューオーダー』
2022年6月4日より全国順次公開
PG-12
クロックワークス
公式サイト
© 2020 Lo que algunos soñaron S.A. de C.V., Les Films d’Ici
TEXT by Myson