このストーリーには、“恋をする”ってこんなに重みがあるんだなと思わせるパワーがあり、小栗旬がすごく役にハマっていて、母性本能をくすぐるセクシーな太宰を見事に演じています。主人公が太宰でなく一般男性なら、ただの女たらし、ダメンズの話と感じると思いますが(苦笑)、小説を書くことへの執念と、本当に愛する人への思いを素直に表現できない人間臭い男の話であることが窺える点で、本作の太宰治というキャラクターを憎む気にはなれません。そして女性なら多くの人が、夫のふるまいに静かに耐えながら彼を支えている本妻に一番共感してしまうと思いますが、2人とも不器用だからこそ距離感ができてしまっている点が生々しくて、キュンとさせられます。太宰は人に求められたいという欲求が強い一方で、愛をそのまま素直に受け取ることに臆病な人間にも思えます。だからこそ、本当に欲しいものがわからなくなっている、というかわかっているのにそれを手に入れる勇気がなくて、孤独から抜け出せないでいるのかも知れません。この物語にいる人物は、誰もが何かしら不幸を被っているのに、そこから抜け出そうとせず、奇妙な“楽園”ができているようにも見えます。その奇妙で美しい世界が蜷川実花監督の独創的な描写に合っていて、良い意味で時代を感じさせず、観やすい作品になっています。
エロチックなシーンが多いので、デートで観るのは気まずいでしょう。そして、1人の男性と3人の女性のお話なので、男性は自分に非があろうとなかろうと(苦笑)、居心地が悪い感覚で観ることになりそうです。観終わった後に女子トークが弾みそうなテーマなので、女子同士で観るのが一番楽しいのではないでしょうか。
R-15ということもありますが、子どもが観て複雑な気分になるシーンがいくつかあるので、そういう意味でも子どもにはまだ観て欲しくない物語です(苦笑)。15歳以上の人は、太宰治に興味がある人にはもちろん、名前だけ聞いたことがあるという人も、こういった作品を観ることで歴史上の人物に興味が湧くので観てみるのも良いと思います。ただし、親と観ると気まずいので友達と観るか、1人で観ることをオススメします。
『人間失格 太宰治と3人の女たち』
2019年9月13日より全国公開
R-15+
松竹、アスミック・エース
公式サイト
© 2019『人間失格』製作委員会
TEXT by Myson