ジャーナリストとして活躍するジェシカ・ブルーダーが数百人のノマドを取材し書いたノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作とする本作は、名優フランシス・マクドーマンドがノマド達の生活に飛び込み撮影され、まるでドキュメンタリーのようなロードムービーとなっています。劇中で主人公ファーン(フランシス・マクドーマンド)と深い関わりを持つボブ・ウェルズ、リンダ・メイ、スワンキーも実在のノマドで本人として出演。それぞれの個性が表れる車に乗り、アメリカ西部の各地を回って、期間限定の仕事をしながら生活をする姿が映し出されています。ファーンやデイブ(デヴィッド・ストラザーン)以外のキャラクターの背景は詳しくは明かされませんが、各々に抱えているものは日々の何気ないやり取りから伝わってきて、言葉で語らずとも多く物語る演出が見事です。
また車で暮らす不便さやさまざまなリスクもリアルに映し出され、彼らがどんな気持ちでこの生活を送っているのか考えずにはいられません。そんな観る側の疑問は、ファーンやデイブの物語を観ることである種の答えに辿り着くように思いますが、単純に理解できるものではない、つまり本人にしかわからないことであるともいえて、だからこそ本作から多くのことを学べるように思います。これは生き方へのこだわり、大事な人への思い、人間としての尊厳といったあらゆるテーマが詰まった作品です。クロエ・ジャオ監督は、前作の『ザ・ライダー』でも映画賞43ノミネート24受賞という快挙を成しており、“アベンジャーズ”シリーズに続く最新ヒーロー超大作『エターナルズ(原題)』の監督にも大抜擢された新鋭とのことで、彼女の手腕にもご注目ください。
主人公や周囲の人々を静かに見守りながら撮られたような作品で、派手な映画ではありません。そういう意味で普段映画を観慣れない人や派手な展開がある映画が好きな人を誘うには不向きかもしれません。逆に普段セカセカと忙しい毎日を送っている人には、視点を変えたり、いろいろな人の生き方を見て自分を振り返るきっかけになると思うので、誘ってみてはどうでしょうか。
キッズにはまだピンとこないと思うので、大人になっていろいろな経験をしてからぜひ観てみてください。高校生、大学生くらいになると、海外や国内で遠距離を旅してみたいという人も出てくると思いますが、そういう人には一層親近感が湧く内容でしょう。また人にはそれぞれ思いや考えがあり、それは必ずしも世間一般の見方に一致しないことも教えてくれるストーリーなので、さまざまな登場人物に思いを馳せながら観てください。
『ノマドランド』
2021年3月26日より全国公開
ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト
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TEXT by Myson