タイトルだけ観てどんな内容なのかはすぐに想像できると思いますが、ドキュメンタリー・タッチで描かれている分、想像以上に不気味な雰囲気がリアルに伝わってきます。本作は、メキシコに伝わる禁断の実話を調査し、メキシコのテレビドラマやドキュメンタリーを数多く手掛けてきたアンドレス・カイザー監督がドキュメンタリー・タッチで描いたものです。公式資料の情報が限られているので、どこからが映画の設定で、どこまでが実話なのかは不明ですが、野生した子どものストーリーだけでなく、その子どもと関わったある男性のストーリーが絡み合うことで、よりドラマチックで悲壮感漂う作品になっています。また、犯罪大国メキシコでは1日約300人、年間約10万人が誘拐され、3万人近くが死に至るといわれています。そういう背景も知りつつ観ると、こういうことが起きていても不思議ではないという感覚で、一層リアリティが増してきます。
身寄りのない野生化した子ども達と彼等を保護した男性。私達には縁遠いお話に見えますが、彼等が社会から離れて孤独に生きる姿に、現代社会の冷たさ、厳しさが投影されているように思えます。
全くロマンチックなムードにならず、不気味さが漂う作品なので、デートに向いているとはいえません。ただタイトルだけでも強烈なインパクトがあるので、2人とも興味があるなら観てみても良いと思います。ホラーではないし、気まずくなるようなシーンもありませんので、その辺はご心配なく。
副題に“獣に育てられた子どもたち”とありますが、獣に育てられている様子が描かれているわけではなく、野生化した子ども達が大人に保護されてからの彼等のやり取りがドキュメンタリー・タッチで描かれています。皆さんと同世代の子ども達が登場するので、彼等と同じ目線で観られるかもしれませんが、複雑な心境になるシーンも多く、内容的にはせめて中学生くらいになってから観るほうが良いように思います。
『野良人間/獣に育てられた子どもたち』
2021年5月21日より全国公開
TOCANA
公式サイト
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TEXT by Myson