本作は、「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM 2019」の脚本部門審査員特別賞を受賞した室井孝介のオリジナル脚本を原案に、熊切和嘉監督が菊地凛子を主演に迎えて制作した作品です。主人公は、人生を諦め、日々何となく過ごしている独身女性の陽子(菊地凛子)です。ある日、彼女のもとに父の訃報が届き、従兄に連れられ、実家のある青森へ向かうことになります。しかし、その道中あるトラブルが起こり、陽子は1人でサービスエリアに残されてしまいます。携帯電話は故障中で所持金もわずかしかないため、陽子は実家までヒッチハイクをすることを決意します。
陽子は普段人とほとんど接することなく生活しているので、急にヒッチハイクができるのかと心配になります。実際車に乗せてくれる人が簡単に見つかるわけではなく、乗せてもらえる人が見つかっても、危険な目に遭う場面もあり、ヒッチハイクの大変さを感じます。そうした彼女の姿を観ていると、とても切なくなり、「誰か助けてあげて」と応援したくなります。もちろん中には優しい人もいて、陽子の心の支えになるような人物も現れます。そんな陽子がヒッチハイクの旅を通してさまざまな人と接することで、どんな変化を遂げていくのか注目です。
菊池凛子は、すっぴんに近いメイクで陽子役に臨んでおり、陽子の無気力さや苛立ちを上手く体現しています。そして、陽子と道中で出会う人物として黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、吉澤健、風吹ジュンらが出演しており、それぞれが陽子の心に少しずつ刺激を与える重要人物を演じています。 本作は人間ドラマとしてもロードムービーとしても楽しめる作品です。陽子の人間関係や辛い心情は、大人ならどこか共感できるのではないでしょうか。もし陽子と同じように人生に疲れてしまっている方なら一歩踏み出す勇気をもらえると思います。
恋愛要素はなく、シリアスなシーンが続くので、デートよりも1人でじっくり観るほうが向いていると思います。ただ、相手がロードムービー好きやヒッチハイク経験者などであれば、一緒に観ても良いかもしれません。もし本作を気に入ったら、次回のデートでは他のロードムービーを一緒に観るのも良さそうです。
人生を諦めてしまった陽子の気持ちを理解することはまだ難しいかもしれないので、せめて中学生くらいになってからご覧ください。また、皆さんの中には、ヒッチハイクに興味のある方もいるのではないでしょうか。陽子の場合は予期せずしてヒッチハイクをすることになり、旅の道中で良い人にも危険な人にも出会います。注意すべき点は留意しつつ、ご自身でもヒッチハイクについて調べてみてください。
『658km、陽子の旅』
2023年7月28日より全国順次公開
カルチュア・パブリッシャーズ
公式サイト
©2023「658km、陽子の旅」製作委員会
TEXT by Shamy