本作は、ベトナム戦争中の1966年4月11日に行われた救出作戦で、アメリカ空軍の落下傘救助隊の医療兵として60人以上の兵士達を救い戦死した、ウィリアム・H・ピッツェンバーガーについての実話を映画化したものです。彼は負傷者と共にヘリコプターで戦線から脱出するチャンスがあったにも関わらずヘリコプターを降り、戦場に残された負傷者の救助に命をかけて対応しました。彼自身はその場で命を落としてしまいましたが、遺された戦友達が30年以上の歳月をかけて彼に名誉勲章の授与を求めた背景が描かれています。戦争の英雄に贈られる勲章にも種類があるようで、名誉勲章はその中でも特別であること、また勲章全体としても授与される背景にはさまざまな事情が絡んでいて、下級の兵士に贈られることが稀であることなども本作を観るとわかります。そういった状況下で、ピッツェンバーガーの戦友達が30年以上ものあいだ、彼の名誉勲章の授与にこだわるのは何故なのかというのが本作の1つのテーマになっています。
その申し出に対応するのはベトナム戦争を知らない世代のスコット・ハフマン(セバスチャン・スタン)。彼は国防総省(ペンタゴン)のエリートで野心家ですが、この事案を任されたことで彼の内面にも変化が起きてきます。本作は、帰還兵の苦悩や戦争で大切な人を失った人々の心情を丁寧に描き、戦争について現代社会に問題提起をしています。そしてハフマンの目を通して、戦争を知らない世代にも考えるきっかけを与えてくれます。また、ピッツェンバーガーのような人物がいる世界がいかに尊いかも訴える内容になっていて、戦争に関わる問題に限らず、人種差別などで分断されそうになっているアメリカ社会に一石を投じる意味も感じられます。引いてはアメリカ社会だけでなく、世界中の誰にとっても、人間としてどうありたいかを問う内容となっていて、仕事への向き合い方から始まり、生き方を見つめ直すきっかけをくれます。エンタテインメントとしても、セバスチャン・スタン、ジェレミー・アーヴァインといった人気俳優が出演しており、クリストファー・プラマー、ウィリアム・ハート、エド・ハリス、サミュエル・L・ジャクソン、ピーター・フォンダといった重鎮俳優が勢ぞろいしているので、映画好き女子にもオススメです。


ラブストーリーがメインではありませんが、複雑な立場で葛藤するハフマンをそっと支える妻の姿が印象的に描かれています。ある意味こういうところで夫婦が同じ方向を見ているかが試されるのだろうと思われる局面でハフマンがどんな判断をするのかを観て、どんな感想を持ったかによって、一生関係を続けられそうか、どこかで価値観のギャップが2人の関係の分かれ道になるか予想できるかもしれません。


ベトナム戦争のシーンはやはり辛いシーンもあり、現代のシーンについても人物や人名がたくさん出てくるので、キッズにはまだ難しいでしょう。中高生は充分ついていける内容なので、戦争がどんな爪痕を残すのかを観て、いろいろと考え、他者と意見交換して欲しいと思います。また、戦争映画として観るだけでなく、自分自身を責めながら生きている帰還兵の姿は、私達の日常に重なる部分もあるので、フラットな気持ちで観てみてください。

『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』
2021年3月5日より全国公開
彩プロ
公式サイト
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TEXT by Myson
