自分自身の人生と母親としての人生とで揺れる女性達の複雑な感情を描いた物語。母親って本当に大変で偉大な役割だと思いますが、そういう目で見られることがプレッシャーだったり辛かったり、お母さん達が本音を吐き出せる場がないという状況を作っているのだなとつくづく感じる内容です。
レイダ(オリヴィア・コールマン)は1人で休暇を過ごすためにあるビーチにやってきます。彼女が静かなビーチで優雅なひとときを過ごしていると、大所帯のグループがやってきます。そこからレイダは心を乱され、同時に自分のこれまでの日々を振り返ることになります。
あからさまに言葉で表現するのではなく、レイダのちょっとした仕草や行動だけで彼女の心の中に渦巻くいろいろな感情を表現しているのが見事で、オリヴィア・コールマンの演技力と、今作では監督に徹しているマギー・ギレンホールの手腕に感服します。母親が子どもに優しくできない時、その行動や言葉の表面的なところだけがすくい取られて非難の的にされてしまうことは、世のお母さんが日々経験されていることだと思います。子どもへの愛情があっても、自分と子どもが置かれている状況をコントロールできなくて途方にくれる感覚はお母さん自身にしかわからないし、投げ出したくなっても母でいることは変わらないし、いくら子育てが辛いと思っていても母であることを忘れているわけではないことが、いろいろな場面で巧みに表現されています。
お母さん達が幸せになることは子ども達の幸せになると考えると、社会的な支援を厚くするのはもちろんのこと、これまでの歴史、文化の中で培われてきた“お母さん像”を変えていくというか、むしろ無くす必要性を感じます。
デート向きな内容ではありませんが、今後も一緒に生きていくならば、ぜひカップルで観て欲しい作品です。言葉で「子育ては母親だけが担うものではない」と言ってもなかなか伝わらないところがあると思います。でもどれだけ追い込まれてしまうのかということが、こういったストーリーから伝わってくるものがあるはずです。本作に登場する母親達について「ひどい母親だな」なんていうような相手だったら、お灸を据えるか、関係に見切りを付けたほうが良いかもしれません。
キッズの皆さんにはまだ理解が難しい作品だと思いますが、中学生くらいなら、お母さんの心情を想像して理解できる部分もあると思います。でも子ども目線で観ると少し悲しくなる場面もあり、解釈がズレてしまうとお母さんのことを誤解してしまうことにもなりえるので、敢えてお母さんと一緒に観て、観終わった後にいろいろと話し合うのも良さそうです。お母さんの気持ちを少し想像できるようになると、今までは日常でただイライラをぶつけあっていただけのことが、穏やかに話して解決できるようになるのではないでしょうか。
『ロスト・ドーター』
2021年12月31日よりNetflixにて配信中
公式サイト
TEXT by Myson