人種差別に関する映画はたくさんありますが、こういった視点のものはあまりなかったのではないでしょうか。勉強もスポーツも万能で学校中から一目置かれている優等生のルースは、歴史の授業で出された課題で過激な内容を提出します。また彼が違法な花火をロッカーに入れていたことで歴史担当の教師ハリエット・ウィルソンは、養母のエイミーにそのことについて懸念を伝えます。そこからルースと養父母との間で信頼関係が揺らぎ始め、ルースに不可解な行動が増えていきます。ここから先は映画で観て頂くとして、本作の特徴は、優秀で一見恵まれていて幸せそうなアフリカ系アメリカ人を主人公としている点です。彼は皆から常に羨望の眼差しを向けられていますが、大きなプレッシャーを抱えています。彼は養母に出会う前、エリトリアで育ち、幼いながらも戦場に駆り出された辛い経験を持っていて、トラウマを克服するために長年苦労してきました。だからこそ、自分はそんな辛い経験を乗り越えた黒人として“象徴”に仕立てあげられるんだと考えていて、本当は皆自分のことを信じておらず、聖人でなければ怪物だと思われているという葛藤を抱えています。
本作で印象深いのは、結局成功してようとしてまいと、「黒人は黒人」という扱いからは抜け出せていない現実がアメリカにはあり、そういう意味でのアメリカン・ドリームもまやかしに過ぎないということです。エリトリアで戦場に駆り出されていた不憫な7歳の少年をアメリカ人夫婦が引き取って優等生に育て上げたことは、世間では美談とされるかも知れませんが、ルース本人はありのままの自分ではなく、完璧な自分を周囲から求められることに生きづらさを感じているのです。ルースの表の顔ともう一つの顔を観ていると、人が本当の意味で認めるということ=称賛ではないのだなと気付かされます。人種差別問題だけでなく、青少年が抱える苦悩を知る上でもとても勉強になる作品です。
ラブロマンスではなく、テーマにも重みがあるので、気楽な気分で過ごしたい日のデートにはあまり向いていないでしょう。でも、本当の自分を知って欲しい、わかって欲しいと思っている人にはとても共感できるストーリーなので、本作を観終わった後は自分の話をしやすくなると思います。なので、今日は映画デートの日という時には一緒に観て、語り合うきっかけにすると良いのではないでしょうか。
中高生くらいになると、主人公のルースの気持ちはとても身近なものに思えて、共感ポイントも多いのではないでしょうか。親や学校の先生に褒めてもらいたくて必死に頑張っているけれど、何だか居心地が悪かったり、孤独や空しさを感じている人もきっとたくさんいると思います。でも、優等生ほどそのイメージを崩せなくて本当の気持ちや自分の姿をさらけ出す勇気が持てないこともあるはずです。本作を観て解決策が見つかるとは言えませんが、このままで良いのかどうか、自分が最初に自分と向き合うきっかけに観てください。
『ルース・エドガー』
2020年6月5日より全国公開
PG-12
キノフィルムズ、東京テアトル
公式サイト
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TEXT by Myson