主人公のジュリアは、バイクをこよなく愛しています。彼女は金持ちを騙してバイクを盗む犯罪を繰り返しています。ある日、盗んだバイクで走っていたところ、ヘルメットを被らずアクロバティックな運転をしているバイカー集団に出会います。ひょんなことから彼等のアジトに踏み入れたジュリアは、バイクの闇の取引に加担していきます。でも、バイカー集団のメンバーはジュリア以外男性ばかり。血の気の多い男達の中には、ジュリアを生意気な女として見下す者もいます。そんな集団の中でジュリアが居場所を見つけようとする姿を映し出しています。
映画が始まるなり荒々しい態度で登場するジュリアはどんな人物なのか、まずそこが気になり物語に引き込まれます。物語が進むにつれジュリアはただただバイクが好きな人であることが伝わってくると同時に、周囲はふとした瞬間に彼女を“女”としてカテゴライズし、同等に扱おうとしていないことがわかります。そんな男性達の態度に屈せず我が道をゆくジュリアの姿は潔く、男性の前では安易に笑顔を見せないジュリアのことをもっと理解したいという気持ちが湧いてきます。
ジュリアが平気でバイクを盗んでしまうことに対しては正直共感できない部分もあります。ただ、ふとこれが男性キャラクターだったらどう見えるのだろうと考えました。共感できないというのは同じだとして、男性キャラクターならこういう設定の作品はこれまでもたくさんあり、それほど違和感はなかったかもしれません。それはつまり、私も無意識にジュリアを女性にカテゴライズして観ていたということです。ジュリアには男性的な面も女性的な面もあって、どちらかにカテゴライズする必要はありません。時代の変化によってそれが頭ではわかっていても、男女で分類するという考え方が無意識に私の中に擦り込まれてきたことを実感しました。
本作の監督ローラ・キヴォロンは自らノンバイナリーを公言している方です。本作には余計な説明もなく、意外な結末に唖然とする方もいるかもしれません。だからこそ、キヴォロン監督が本作にどんな思いを込めたのか想像せずにはいられません。個人的には、まだまだジェンダーレスな社会になっておらず、不自由な世の中であることを象徴する結末であると捉えました。皆さんもさまざまな解釈をもって観てみてください。
ジュリアの他に、オフェリーの物語も印象的に描かれています。彼女は夫との関係でとても窮屈な思いをしています。恋愛関係においては、オフェリーの様子を観ることでいろいろと思うところが出てくると思います。束縛が厳しい相手と付き合っていたり、相手の価値観に押し込められている感覚に悩んでいる方は、1人でじっくり観て自分達の関係を客観視するのも良さそうです。
バイカー達のアクロバティックな運転は映画で観る分には楽しさもありますが、言うまでもなく絶対に真似をしないようにお願いします。ストーリーについては、まだアイデンティティを模索中のティーンの皆さんは共感できる部分が大いにあるのではないでしょうか。周囲に流されず、自分は自分という態度を貫き通すジュリアの姿に勇気をもらえる部分もあるでしょう。
『Rodeo ロデオ』
2023年6月2日より全国順次公開
リアリーライクフィルムズ、ムービー・アクト・プロジェクト
公式サイト
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TEXT by Myson