斬新なカーデザインと大排気量のエンジンを搭載したデロリアン(車)は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のタイムマシンとして登場したことでよく知られていますが、本作はそのデロリアンを作った実在の人物ジョン・デロリアンの物語です。彼はゼネラルモーターズにいる頃、ポンテアックGTOを生み出したのを機にメキメキと出世し、史上最年少で副社長にまで昇進しましたが、現場から離れていくことに欲求不満を募らせ、1973年に65万ドル(当時の金額)の年収を捨ててゼネラルモーターズを退社。その後、自身で会社を立ち上げ、新車の開発に乗り出しますが、本作では起業してからの彼の奮闘を描いています。一見、実力を示して自動車業界に名を馳せたジョンが独立して新しいスタートを切り、新車で注目を集め、苦労しながらも前進していくサクセスストーリーかと思いきや、全く違っていてビックリ。車への情熱があるからこそ、暴走してしまうジョンに共感できなくもないですが、目的を果たすために手段を選ばない、というか選べなくなっている状況で、狂気が勝る選択をしてしまうところに、人間の奢りが見えます。また、ジョンが間違った選択をしてしまう環境が身近にあること、そして罪を犯した後の展開も、いかにもアメリカ的でゾッとします。アメリカン・ドリームという言葉は今はどれくらい使われているかわかりませんが、これは天国から地獄へ落ちる悪夢にも思えると同時に、誠実か不誠実かに関わらず再起できる点でも、良くも悪くも“アメリカン・ドリーム”ってこういうことなんだなと思えてきます。個人的には、モノ作りをする人はピュアであって欲しい、人々に夢を与える人であって欲しいと勝手に思ってしまうので、ラストはすごくモヤモヤしてしまいましたが、だからこそ、こういった人間の不可解さに興味をそそられるとも言えます。また、企業の一員として才能を発揮する人が必ずしも起業家として成功するかは別問題だなということも実感できるので、世の経営者の皆さんに特にオススメしたい作品です。
途中までは、奥さんはこういう夫をもって誇らしいと思えるだろうなという目で観られるかも知れませんが、後半はもし奥さんの立場だったら胸騒ぎしかしないだろうと思える展開です。規模はここまでではなくても、野心を燃やす人と付き合っていたら、かなりリアルに観てしまう内容ですが、だからこそ一緒に観て本音をぶつけ合うのも良いのではないでしょうか。本作が冷静さを持つきっかけになると良いですね。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は今でも愛される名作なので、キッズやティーンの皆さんもそれを観てデロリアンという言葉を知っていると思いますが、本作はデロリアンという車を開発する話ではありません。なので、正直見た目の派手さはそれほどなく、1人の男性の運命がジェットコースターのように乱高下するところがドラマチックで、大人向けの作品です。社会に出てから観たほうがおもしろさが増すと思います。
『ジョン・デロリアン』
2019年12月7日より全国順次公開
ツイン
公式サイト
TEXT by Myson
© Driven Film Productions 2018