REVIEW
ジョン・ガリアーノにこんな出来事があったとは本作で知りました。ガリアーノは、ロンドンのセントマーチンズ美術学校に入り、1984年に行われた卒業制作のショーで才能を開花させ、一気に注目を集めます。1995年にはジバンシィ、1996年にはクリスチャン・ディオールのデザイナーに抜擢され、比類なき天才デザイナーとして活躍してきた布石が本作で綴られています。でも、絶頂期だった2011年、彼はすべてを失います。彼は見知らぬ相手に反ユダヤ主義的な暴言を吐き、その動画は拡散され、有罪となり、ディオールから解雇されてしまいます。本作では当時の真相をガリアーノ自らが語っています。
前半で描かれる彼の功績があまりに輝かしいからこそ、彼が2011年に起こした事件が不可解でなりません。ただ、活躍の裏で起こっていた出来事を知るうちに、誰にでも起こり得る要素があると思えてきます。もちろん、人種差別は許されません。そして、彼の贖罪の方法に問題がなかったとも言い難い部分はあります。ただ、誰にでも壊れる時があるのではないか、天才だろうが凡人だろうが人間は同じであるという思いも浮かんできます。
本作では、ケイト・モス、ナオミ・キャンベル、アナ・ウィンター(アメリカ版「VOGUE」の編集長)、シドニー・トレダノ(クリスチャン・ディオール元CEO)、ベルナール・アルノー(LVMH:LVMH Moet Hennessy – Louis Vuitton/エルブイエムアッシュ モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトンの筆頭株主で会長兼CEO)など、ジョン・ガリアーノを支えた人物も登場します。大きな過ちを犯した時にも見放さない、良き理解者がいるかいないかで、運命は大きく変わる様子も観ることができます。
また、良くも悪くも、彼には世界の何もかもがファッションに見えている様子も伝わってきます。ガリアーノのこの事件に限らず、他のファッションブランドでも人権侵害だと非難を浴びた出来事はあり、業界を問わずこういったことは絶えず起こっています。芸術だから許されるということではもちろんないものの、悪意がなかったとしても、何かを表現する際に、正解と不正解を強く求められる社会になってきた現実を実感します。こうなると、表現の自由はどこまで許されるのかという問題は以前より難化したといえそうです。
本作は、希代のファッションデザイナーの功績を綴ったドキュメンタリーではありません。誰にでも通じる仕事観、倫理観、人生観を問うドキュメンタリーといえます。
デート向き映画判定
本作を観ていると、仕事でのパートナー、プライベートでのパートナーの重要性を感じます。仕事が忙し過ぎる方ほど、本作を観て欲しいです。絶好調だからこそ周りには気づけないこともあり、好きな仕事をしているからと本人も周囲も見過ごしてしまうリスクもあります。パートナーにもそんな状況が垣間見えたら、ぜひ誘って一緒に観てください。一旦立ち止まる大切さも客観視できるでしょう。
キッズ&ティーン向き映画判定
これから社会に出る皆さんにとっては、まだピンとこない部分もあると思います。追いかけていた夢が実現して、成功すれば、幸せになると大人だって考えます。やりたいことを突き詰めて、その分野で才能を認められ、人に必要とされる状況はある意味幸せです。でも、時間は誰にも等しく1日24時間しかないし、人間の体と心には限界があります。そのことを予め知っておくことは自分のためにも周囲の人のためにもなる部分があると思います。
『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
2024年9月20日より全国公開
キノフィルムズ
公式サイト
© 2023 KGB Films JG Ltd
TEXT by Myson
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情報は2024年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。