法廷劇と聞いて、有罪になるか、無罪になるかというストーリーかと思いきや、本作は観客を思いもしない境地へ連れて行ってくれます。母と子の複雑な関係をまさか法廷劇で描くとは素晴らしい!言葉で説明できない母と子どもの繋がりを、映画を通して感覚的に見事に表現しています。
被告人として法廷に立つのは、生後15ヶ月の娘を殺した罪に問われているロランス。裁判長から、なぜ娘を殺したのかと問われた彼女が、「わかりません。裁判で知りたいと思います」と答えるシーンに本作のスタンスが表れていると同時に、その不可解な回答に観る者は惹きつけられます。さらに、裁判を傍聴するラマのストーリーとロランスのストーリーを融合した展開が見事です。
母になるとはどういうことなのか、娘の目線、母の目線の両方で描かれています。本作に描かれているのは女性なら誰もが抱える不安ともいえます。母となる女性がいかに険しい道を歩んでいるのかを描きつつ、そっと寄り添う優しさが伝わってくる作品です。
「子どもを殺した母親」という強烈なレッテルがあるなかで、母という存在をどう見るのか。映画を一通り観た後で何を語るかで、価値観の相性がすごくよくわかると思います。デートのムードを盛り上げるどころか、デートも忘れて観てしまう深くて重い内容ですが、真剣交際中の2人なら一緒に観るのも有意義ではないでしょうか。
被告人のロランスがどういう状況にあったのか、彼女が罪を犯した背景の奥の奥を探るストーリーとなっていて、子どもを殺したという事実とは別の次元で考えるべき論点があります。ある程度の理解力が必要とされる作品だと思うので、せめて中学生くらいになってから観るほうが良いでしょう。
『サントメール ある被告』
2023年7月14日より全国順次公開
トランスフォーマー
公式サイト
© SRAB FILMS – ARTE FRANCE CINÉMA – 2022
TEXT by Myson