1991年生まれ、高校から執筆活動を始めた橋爪駿輝が、2017年に作家デビューを果たした小説「スクロール」(講談社)を映画化。死にたい気持ちを抱えている〈僕〉(北村匠海)と、何事も“こなす”のが得意なユウスケはある日突然、大学時代の友人が自殺したことを知り、これまでの自分と向き合うことになります。〈僕〉のネットの書き込みに共感し新たな一歩を踏み出そうとする〈私〉(古川琴音)と、結婚することで心の穴を埋めようとする菜穂(松岡茉優)も、理想と現実の狭間でもがきます。4人の若者の姿はとても生々しくて、まさに等身大。今、彼等と同世代の方はもちろん、さらに年上の大人の視点で観ても、20代社会人が抱える焦燥感や絶望感をリアルに体感できるでしょう。
仕事観、結婚観は時代と共に変わってきたと思いきや、普遍的である部分も感じられます。特に印象的だったのは、松岡茉優が演じる菜穂です。結婚のことで頭がいっぱいになり、やってはいけないことを次から次へとやってしまいます(苦笑)。でも、自分に何か不足しているという漠然とした不安がある時に結婚という希望が見えてきたらしがみつきたくなるのもわからなくもありません。ただ、それが思いっきり態度に出て相手にとって重い存在になってしまうのは、やはり“個”としての自分がないからかもしれません。だからこそ、人は困難にぶつかった時に“スクロール”して自分を築きあげていくのだなと感じます。
また、本作では、自分と誰かの間で起こる化学反応を描いています。相手の言葉や行動を受けて自分がどう考え行動するのか。その時の判断や行動が生んだ結果に責任を感じている姿を観ていると、こうして人間は大人になっていくんだなと共感します。彼等と一緒に胸が締め付けられるような思いをしながら、最後には清々しい気持ちになれます。1人で悶々とせずに、本作を観てこの世のどこかで皆戦ってるんだと感じられれば、心を少しチャージできると思います。
人気若手俳優が勢揃いしていますが、キラキラ映画ではなく、かなり現実的でテーマも重みがあります。でも、思わず普段は口にしない心の内を明かしたくなるムードになれそうです。心の距離を近づけたい人は好きな人を誘ってみても良さそうです。
早ければ中学生くらいから、主人公達が抱えている不安を自覚している方もいると思います。ティーンの皆さんよりも少し年上の人達の物語ですが、近い将来の姿の一例として観ておくのも良いでしょう。お手本にするしないに関係なく、誰もが通る道だと思って観てください。心構えをしておくだけでも、少し心に余裕ができると思います。
『スクロール』
2023年2月3日より全国公開
ショウゲート
公式サイト
©橋爪駿輝/講談社
©2023映画『スクロール』製作委員会
TEXT by Myson