REVIEW
朝井リョウの小説を、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太等の豪華キャストで映画化した本作は、フェティシズムをテーマに、人に理解されがたい性欲、思想、感情を描いています。先入観を避けるために、どんなフェティシズムを取り上げているのかは伏せるとして、この物語には、マジョリティの観点で語られる“普通”“常識”が、マイノリティの人達に対してどれだけ窮屈さ、生きづらさを与えているかが綴られています。
昨今、多様性という言葉が飛び交うようになりつつも、多様性の範囲として語られている事柄は氷山の一角であると同時に「多様性」という言葉が都合良く濫用されている現実にも気付かされます。また、誰もが必ず人と違う一面を持っているはずなのに、性的な話になると簡単にはいかない。人は生きていく上で性の話題から逃れられないのだなと実感します。さらに、多様性を認めようという風潮が高まっているとしても、性の話となると、どんな多様性も認めようというわけにはいかない現実にふと引き戻される展開があります。この物語はそういった辛辣さと正直さで、一筋縄ではいかない問題に向き合う覚悟を観る者に問うてきます。
また、“正欲”というタイトルが指すものは、広い意味での人間の欲求も含まれているように受け取れます。本作に登場する子ども達、親達の「こうなりたい」「こうなって欲しい」という欲望も含めて、正しい欲求、正しい欲望とは何なのかを考えさせられます。本作はセンセーショナルなテーマを扱っており、そこに最初は目がいきます。ただ、根本には、誰もが何かしらのポイントで感じる疎外感とどう向き合うかが描かれているように思えます。この物語は、疎外感に気付かないように世の中の“普通”に合わせて生きる人が大半であるなか、疎外感に向き合ってありのままの自分を受け容れようともがく人達の物語です。結果的には普遍的なテーマで描かれいて、誰にとっても自分事として観られると思います。
誰かと一緒に生きていきたいと思っているなら、一緒に生きていく上でここが合わないと辛いという、とても大切なテーマが描かれています。今交際中のパートナーと将来ずっと一緒にいたいと思うなら、一緒に観て感想を述べ合うと人生観が合うか検討材料が得られそうです。どんなポイントで受容、拒絶の反応を見せるのかによって、根本的に合わない相手かどうかもわかるのではないでしょうか。
さまざまな立場のキャラクターがいるので、誰かしらに感情移入できると思います。ただ、表面的なところだけを観て誤解して欲しくない部分もあるので、せめて中学生くらいになってから観るほうが、より理解できるように思います。デリケートな内容なので、内容を茶化しそうな友達と観るのはやめておいたほうが良いでしょう。1人でじっくり観るか、正直に感想を述べ合う友達と観るのが良いと思います。
『正欲』
2023年11月10日より全国公開
ビターズ・エンド
公式サイト
©2021 朝井リョウ/新潮社 ©2023「正欲」製作委員会
TEXT by Myson
関連作
書籍「正欲」朝井リョウ著/新潮文庫
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情報は2023年11月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。