『フタリノセカイ』で商業デビューを果たした飯塚花笑監督によるオリジナル長編第3作目となる本作は、監督自身の経験をもとに、8年の構想期間を経て制作されました。主人公は、フィリピン人の母親と日本人の父親を持つ高校生の純悟(堀家一希)です。母親のレイナ(ガウ)と2人で暮らしている純悟は、父親について何も知らず、自分の生い立ちや母親の日々の言動に不満を抱いています。そして、ある日母親から再婚を言い渡されたことをきっかけに、純悟は実の父親を探し始めます。
純悟の抱えるフラストレーションは思春期を経験した方なら誰でも共感できるのではないでしょうか。彼の場合は、実の父親を知らないことや、周囲の人達と上手くコミュニケーションがとれないことから、自分のアイデンティティについて深く考えています。一方母親のレイナにも苦労や葛藤があり、純悟に対して愛情を上手く伝えられず、すれ違っている様子は観ていてととてももどかしくなります。レイナがフィリピン人であることから、職場であることを疑われてしまうシーンはとても悲しくなり、特に印象に残ります。親子関係がどこまで複雑に絡み合うのか、親子それぞれの葛藤がどう終着するのかに注目です。
また、純悟には恋人の優助(篠原雅史)がおり、2人の恋愛模様も描かれています。純悟が自分のアイデンティティとセクシャリティについて考え、向き合う姿はとても苦しそうで、その辛さが観ている側にも伝わってきます。そんな純悟を演じた堀家一希の名演も心に残ります。純悟と同じように何かにフラストレーションを抱えている若い方達はもちろん、親子関係に悩む大人にも観て欲しい1作です。
親子の絆がメインとして描かれつつ、純悟の恋愛についても描かれた作品です。純悟は、自分のアイデンティティやセクシャリティに悩んでいることから恋人に対しても煮え切らない態度をとってしまいます。恋人を傷つけてしまった純悟が関係を修復していけるのかどうかも見どころの1つとなっています。純悟のようにならないためにも、もし何か悩みを抱えている場合は相手に早めに伝えることをオススメします。
純悟と同世代の皆さんなら、彼の苛立つ気持ちを理解できるのではないでしょうか。純悟は母親と顔を合わせるたびに口喧嘩をしていて、母親もどうしたら良いのかわからず困っています。もし純悟と同じような経験のある方は、本作で親側の苦労も知ることで、自分の親子関係を振り返るきっかけにして欲しいと思います。
『世界は僕らに気づかない』
2023年1月13日より全国順次公開
Atemo
公式サイト
©「世界は僕らに気づかない」製作委員会
TEXT by Shamy