ベタシュ・サナイハ監督と、主演も務めるマリヤム・モガッダム監督が2度目のタッグを組み、共同監督・脚本と務めた本作は、第71回ベルリン国際映画祭金熊賞&観客賞にノミネートされました。本作にはこれがイランの実状なのかと驚くべき内容が詰まっていると同時に、このような実態があることを考えると、本作をよく完成させられたなとも驚きます。でもやはり、公式サイトで「自国ではイラン政府の検閲より正式な上映許可が下りず、3回しか上映されていない」とあるように、この事実からもまだまだ問題を打破できない状況なのだと伝わってきます。
本作の主人公は、愛する夫を1年前に処刑されてしまったミナ。彼女は耳が不自由な幼い娘と2人暮らしで、稼ぎは少なく困窮しています。でも夫が処刑されてから1年後のある日、ミナは裁判所から夫が冤罪だったと知らされます。賠償金の支払いで事を済ませようとする裁判所にミナは謝罪が欲しいと食い下がりますが門前払い。それでも訴えを続けるミナのもとに、ある日1人の男性が現れます。彼はミナ親子に救いの手を差し伸べますが、彼には大きな秘密があり、それが何なのか、それを知った時ミナがどういう決断をするのかというところが、本作の肝となっています。
冤罪で死刑にしておいて、お金で簡単に済ませようとする裁判所の対応にも唖然としますが、女性というだけで生きづらい社会であること、未亡人なら一層困ることなどが描かれていて、女性達は本当に過酷な状況で暮らしているのだなと伝わってきます。それでも負けずに自立して生きようとするミナが立派で、前を向いて新しい一歩を踏み出そうとする姿に共感を覚えると同時にエールを贈りたくなります。でも、そこで終わらないところが本作の残酷なところで、ただその残酷さに対するミナの決断こそ彼女の強さを物語っているとも思えます。程度が異なるとはいえ、未だに世界中で性差別は行われています。日本にいる私達にとっても、性別に関係なく観て考えるきっかけになればと思います。
あり得ない状況というか、あってはならない状況が描かれている点で、自分達に置きかえるという観方にはならないと思いますが、重い内容という点でデートムービーという感じではないのと、内容的にカップルで観ると複雑に思える展開があるとも言えます。作品のトーンとしてじっくり観て欲しいタイプの作品なので、1人で観に行くほうが向いていると思いますが、映画を一緒に観に行くのが恒例で語りたいカップルならデートで観るのもアリかもしれません。
死刑制度やイランの宗教的な背景を知った上で観たほうが理解が深まると思うので、せめて中学生くらいになってから観るほうが良いのではないでしょうか。ただ、若い皆さんにも知っておいていただきたい実態が描かれているので、興味を持った時にぜひ観てみてください。国は違えど、日本にもまだ性差別はあり、死刑制度もあります。いろいろと考えさせられる内容なので、誰かと一緒に観て語り合うのもオススメです。
『白い牛のバラッド』
2022年2月18日より全国公開
ロングライド
公式サイト
TEXT by Myson