ブラムハウスが手がける、この社会派スリラーはどこにでもある現実を描いているからこそ、恐ろしさが半端ありません。登場人物はごく普通の主婦、会社員、教師といった顔ぶれ。でも、彼女達は、過激な思想を持った白人至上主義者です。幼稚園で教師をしているエミリー(ステファニー・エステス)は、白人至上主義のグループ「アーリア人団結をめざす娘たち」の集会を開きます。そこへエミリーを含め6人の女性が集まります。彼女達は日常で感じる逆差別について話したり、人種差別だけではなく、フェミニズムについても異議を唱えます。そして、集会がお開きになった後、さらに恐ろしい光景が繰り広げられます。
彼女達はあたかも正論のように話すので、それなら一旦彼女達の言い分も理解できるところがあるのか観てみようという気持ちになるかもしれません。ただ、その後に映し出される彼女達の本性を観ると、譲歩しようとした気持ちを返してくれと思うはずです。彼女達は自分がうまくいかない理由を、逆差別のせいにしています。また、結局人種は関係なく人間性の問題だとわかります。彼女達のように、多様性を受け入れられない人間は、たとえ同じ人種だけの社会になっても、うまくやっていけないことが一目瞭然です。敵がいなくなれば、また新たな敵を自分から作り、自分が不幸である言い訳に使うだけなのです。
社会的弱者と、あたかも逆差別の被害者であるかのように自分を正当化しようとしているだけの者との大きな違いは、後者は自己中心的であることです。それは本作に登場する女性達の間のやり取りのあちこちに垣間見ることができます。彼女達は、結局は人と本当の関係を築けない人間です。映画公式サイトには、ベス・デ・アラウージョ監督が本作を作った背景も詳しく載っています。ぜひ監督の思いも合わせて読んで欲しいです。
本作には人種差別だけではなく、女性としての在り方もテーマとして含まれています。私達日本人にも身近なストーリーです。全編ワンショットで紡がれる緊張感たっぷりでリアルなスリルをぜひ味わってください。これが映画の中のことだけであって欲しいと思うはずです。
本作に登場するエミリー夫妻のやり取りも衝撃的です。カップルで観ると、複雑な心境になるでしょう。エミリーが抱えているのはとても根深い問題で、結婚してからこういう本性がわかると最悪です。相手に危険な思想がある気配を感じている方は、一旦自分の恋愛関係を冷静に見直すために1人で観ることをオススメします。
とても大切なことを学べる作品です。若い皆さんからすると、大人ってクレイジーだと思う部分が大いにあると思います。本作に登場するエミリー達は、反面教師として観てください。その上で、どんな人間関係を築いていきたいか、どんな社会を望むのか考えてみてください。そうすれば、自分の価値観も見えてくると思います。
『ソフト/クワイエット』
2023年5月19日より全国順次公開
アルバトロス・フィルム
公式サイト
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TEXT by Myson