タイトルになっている“空に住む”という言葉が、観ていくうちにいろいろな意味を持ってきます。主人公の直実(多部未華子)は、突然両親を亡くし、愛猫を連れて、叔父が所有するタワーマンションの一室に引っ越してきます。39階の自室からは都会の景色が一望でき、まさに空に住んでいる感覚。ここで心機一転して、元気を取り戻したい直実ですが、なかなか簡単にはいきません。そんななか、直実はマンションのエレベーターで偶然にも人気俳優の時戸(岩田剛典)に会い、不思議な関係になっていきます。ここからは映画で観て頂くとして、印象的だったのはまずカメラワーク。今直実がどんな人に会ったのか、誰を見てるのか気になるような、すぐに相手が誰かを見せない撮り方で、直実の人見知りな部分と、一方で好奇心が強い部分を表現しているかのようです。また、直実のセリフと時戸のセリフがとても哲学的で、まったく正反対に見えて、2人とも“空の住人”であることが伝わってきます。
ここからは、映画についての個人的な解釈を述べるので、何も知りたくない方は観終わってから読んでください。
これはあくまで私の解釈ですが、“空に住む”の意味はキャラクターによって違っていて、居場所がない、空虚である、自分という存在が掴めずフワフワしている、世の中を俯瞰している…などさまざまです。また、虚構の中にある真実を見出そうとする者もいれば、真実に気付いていながら虚構の世界にまみれて苦しむ者もいて、さまざまなキャラクターを通して、その対比が描かれている点も見どころとなっています。でも、一見それぞれに違ったキャラクターでありながら、誰もが持っている感情や心理を映し出している点では、どのキャラクターにも共感できるはずです。多部未華子、岩田剛典、岸井ゆきのなど、実力派俳優の名演にも注目しながらお楽しみください。
ロマンチックなシーンはありつつ、複雑な人間関係を描いているので、一緒に観てムードが盛り上がるかどうかは読めません(笑)。ただ、恋愛関係にフォーカスしたストーリーというよりも、広い意味での人間関係について哲学が語られるシーンがあり、それを戯言と捉えるか、深いと捉えるかによって、2人の価値観、相性が見えてくるかもしれません。会話劇としても魅力的な作品なので、知的な部分での相性も測れるのではないでしょうか。
見た目にわかりやすく派手な展開があるわけではなく、日常を淡々と描いているので、キッズにはまだピンとこないかもしれません。ティーンは、直実の心情を感覚的にわかる人がいそうな気がします。寂しい思いを散々してきて、自分の気持ちを抑えることに慣れてしまい、感情をどこで出して良いのかわからない。そんな人は特に主人公に共感できると思います。不器用な主人公の奮闘を観ると、少し元気がもらえるはずです。
『空に住む』
2020年10月23日より全国公開
アスミック・エース
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TEXT by Myson