SNSでバズろうと躍起になり、我を失う若者を描いた本作は、サンダンス映画祭で話題を呼び、全米では33館という小規模の公開ながら全米初登場9位に入る快挙を成しました。主人公のカート(ジョー・キーリー)は、自身で動画を撮ってアップしていますが、ずっと視聴者数は1ケタ。そこで、ライドシェアの運転手をしているカートは、乗客を巻き込んだ“企画”を思いつき、そこから彼の暴走が始まります。
“spree”とは、欲望にふけること、やり放題という意味で、“driving spree”で暴走運転、”killing spree”だと、殺しまくることといった意味になります。ここでは、SNSに没頭することから始まり、いろいろな意味が“spree”という言葉に込められているようです。狂気の度合いは違えど、主人公以外にもSNSでフォロワーを増やすこと、バズることに憧れを持つ人物が登場しますが、発信する側だけでなく、それを観る側、煽る側の狂気、本当に起こっていることとフェイクの境界線がわからなくなる恐ろしさが描かれています。完全にエンタテインメントとしてこのホラーを楽しむ人もいれば、切実な社会問題を扱った作品として観る人もいると思いますが、私は後者の感覚で観て、現代社会の闇の深さに危機感を覚えました。むしろホラーとしての怖さよりも、ネット上が無法地帯となっていて、罪に無自覚になっている人間が無数にいることの怖さがあり、さらに人間がこんな些細なことで狂気に陥っていく怖さがあります。映画はフィクションだけれど、背景にあるものが現実で起こっていることなので、そういう怖さがリアルである点が、本作の魅力の1つなのだと思います。ホラーとしては、「ギャーッ!」となるギリギリのところまで映しつつ、露骨な描写がない分、観やすいと思うので、気楽に観たい方は、ジェットコースター・ムービーとして楽しんでください。
露骨には映っていないとはいえ、殺人シーンは豊富にあるので、ホラーが苦手な方を誘うのは控えたほうが良さそうです。相手の好みがわからないうちや、初デートで一緒に観るのも少々リスキーなので、お互いの許容範囲を知っているカップルにオススメです。中には、自分のパートナーがSNSに夢中なだという方もいそうですが、警告の意味で見せてあげるのも良いかもしれないですね。
R指定は付いていないようですが、キッズにはまだ刺激が強いので、せめて中学生になってから観ましょう。本来は皆さんのような世代にこそ観て、警告として受け取って欲しい内容でもあるので、エンタテインメントとして楽しみつつも、反面教師として参考にしてみてください。ただ承認欲求を満たしても幸せにはなれません。もし喪失感があるとしたら、本質的に何が欠けているのか客観視できれば、主人公のようにはならないのではないかと思います。
『スプリー』
2021年4月23日より全国順次公開
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TEXT by Myson