ビリー・ホリデイという名前は聞いたことがありましたが、どんな歌を歌っていた方なのかは本作を観て知りました。ビリー・ホリデイ(アンドラ・デイ)は“奇妙な果実”という歌を歌ったことで、政府から目を付けられ陰謀に巻き込まれていきました。本作ではその真相が描かれています。
私は“奇妙な果実”を初めて本作の中で聞きましたが、かなり衝撃的な内容です。この歌詞にあるような出来事が実際に行われていた(今も形を変えて行われている)と思うと本当に恐ろしいし言葉を失います。でも、未だに人種差別が続いている証拠として、アメリカでは1937年にようやくアフリカ系アメリカ人のリンチを禁止する法案が上院で審議されつつも通過せず、再び2020年にエメット・ティル反リンチ法が上院で審議されつつもまだ通過していないということが本作の中で示されています。そんな状況のなか、ビリー・ホリデイの『奇妙な果実』は多くの人々に影響を与えてきました。ただ、白人至上主義の立場の人間にとってそれは脅威だったのです。彼女に脅威を感じて、政治的な力で彼女を排除しようとしたのが、当時の連邦麻薬局の長官、ハリー・アンスリンガー(ギャレット・ヘドランド)でした。劇中では彼が権力に物を言わせて彼女を排除しようといろいろ画策していたことが描かれつつ、ビリーの同胞であっても権力に屈服してしまう様子が描かれています。同時に、性差別の実態も垣間見えて、アフリカ系アメリカ人であることで苦難を強いられるだけでなく、女性であることでも彼女が苦しんできたという事実に胸が痛みます。
彼女が大スター以上の存在だったのだということは本作を観るとわかります。実在したスターの苦悩の日々を明かす物語は多くありますが、本作はそれとも一線を画す内容です。邪魔なモノは排除する、これは人種差別に関することだけではなく日常にあることだと思うと、他人事にはできないなと感じます。
かなり重くて衝撃的な内容で、複雑な恋愛関係も描かれています。なので、初デートや交際ホヤホヤカップルのデートには向いていないと思います。ただ、本作を一緒に観て感想を述べ合うことで価値観や考え方の相性は見えそうなので、それを確かめたい方は一緒に観るのもアリでしょう。純粋な愛って何だろうと考えさせられる部分もあり、今の恋愛に疑問を感じている方は敢えて1人で観て自問するきっかけにするほうが良いと思います。
冒頭からかなりショッキングで、性描写やドラッグを使用するシーンも出てくるので、せめて中学生になってから観るほうが良いと思います。ただ、グローバル化が進んだ社会に出て行く若い皆さんには、こうした実態がまだ続いているということは知っておいて欲しいので、興味が湧いたらぜひ観てみてください。
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
2022年2月11日より全国公開
ギャガ
公式サイト
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TEXT by Myson