本作の舞台は何も起こりそうにない穏やかな田舎町。警察に通報されるのは、住民同士の痴話げんかくらいで、のんびりとした空気が流れているのですが、夜になっても明るい、時計やスマホが動かないなどの現象が起き始めます。そして、遂に死者が蘇るのですが、その時の住民達のリアクションがこれまたのんびりしていて、よくあるゾンビ映画の緊張感とは違った空気に笑いがこみあげます。さらにゾンビの特徴もユニークなんです。でも、そうした独特のムードに浸って、小洒落た映画を楽しんでいる気になっているところへ、ズドンとラストにジム・ジャームッシュ監督が伝えんとする深いメッセージが示され、急に緊張感が高まります!で、一つ謎だったのが、映画の中の世界と現実の世界が錯綜するシーンがあること。アダム・ドライバーとビル・マーレイがキャラクターとしてというより、本作に出演する俳優として発言しているシーンがあるのですが、ゾンビが何を象徴しているのかをラストで知ると、映画の世界は他人事ではないと気付くはず。そういったひねりの効いた仕掛けやユーモラスな描写など、さすがジム・ジャームッシュ監督という点と、ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、ティルダ・スウィントン、クロエ・セヴィニー、スティーヴ・ブシェミ、ダニー・グローヴァー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、セレーナ・ゴメス、オースティン・バトラーなど、錚々たるメンバーが出演している点でも映画ファンにはたまらない1作となっています。
ゾンビといえば頭を狙うのが常識なので(笑)、それゆえに血しぶきが飛んだり、首がすっ飛んだりというシーンが苦手な人もいるでしょう。でも、本作はそういう描写ではないので、心配ご無用。ただ、ゾンビに喰われた人達はそれなりに血みどろなので、そこだけは覚悟してもらわないといけません。というわけで誰でも誘いやすいジャンルではありませんが、ユーモアたっぷりでありながら、とても深いメッセージが含まれているので、映画満足度としては高いのではないかと思います。こういったいろいろな要素を踏まえて、大丈夫そうだったら、本作で映画デートに誘ってみてはどうでしょうか?
前述したように、現実の世界と映画の中の世界が錯綜するシーンなどは、ちょっと混乱する知れませんが、気楽に観てわかるところだけ楽しむのもアリでしょう。おもしろい特徴を持つゾンビの他にも、個性的でおもしろいキャラクターが出てくるので、キッズやティーンの皆さんでもとっつきやすいと思います。怖いもの好きな人にオススメするのはもちろんのこと、ゾンビ映画は実はとても哲学的だったり、深い内容だったりするので、興味があればトライして欲しいジャンルです。
『デッド・ドント・ダイ』
2020年6月5日より全国公開
ロングライド
公式サイト
Credit : Abbot Genser / Focus Features © 2019 Image Eleven Productions, Inc.
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TEXT by Myson