東京国際映画祭史上唯一、『ブロークン・ウィング』(2002)、『僕の心の奥の文法』(2010)で、2度のグランプリに輝いたニル・ベルグマン監督によって撮られた本作は、脚本家の父と弟をモデルとした実話に基づく物語です。自閉症スペクトラムを抱えるウリは、父のアハロンと仲良く暮らしていますが、定収入のないアハロンは養育不適合と判断され、ウリは施設に入らなければいけなくなります。でも、ウリは父アハロンが大好きで、アハロンも息子が大切で心配で仕方がありません。そんななか、アハロンはウリが施設に入るのを何とか避けてきましたが…。
ここからは本編を観ていただくとして、本作には父の大きな葛藤が描かれています。ウリの心は少年ですが、身体は既に大人でいろいろな問題に直面し、アハロンが対処するのは難しくなっていきます。そして経済的な問題はもちろん、アハロンが老いて亡くなった後にウリはどうなるのかという将来の心配もあります。本作には、2人が離れがたくなる心温まるエピソードと同時に、現状維持が難しいと認めざるを得ない現実的なエピソードも盛り込まれ、観る側もアハロンと同じ葛藤を味わえます。窮地に追い込まれた2人はどうなるのか最後まで読めない展開が続きますが、最後はとても清々しく温かい気持ちにさせられて、子の成長と親の成長について考えるきっかけをもらえます。そして、ウリを演じたノアム・インベルの見事な演技にもぜひご注目ください。
ロマンチックになるタイプの映画ではありませんが、父と息子の心温まる物語なので、お互いに優しい気持ちになれるし、自然にお互いの家族の話をするきっかけにできるのではないでしょうか。お子さんがいらっしゃる夫婦で観ると、自分達の子育てについて振り返るきっかけにもなると思います。涙腺が脆い方はハンカチとメイク直しをお忘れなく。
劇中では、公共の場でパニックを起こしたウリの行動を冷ややかな目で見ながら通り過ぎていく人々の姿も映し出されています。ウリは見た目が大人なので、事情を知らない人から見るとウリの行動は不可解に思えるのは当然ですが、少しでも背景を想像できる知識があれば見方や態度は全然違ってくると思います。ぜひ皆さんも本作を観て、自閉症スペクトラムについて知ってもらえたらと思います。
『旅立つ息子へ』
2021年3月26日より全国公開
PG-12
ロングライド
公式サイト
© 2020 Spiro Films LTD.
TEXT by Myson