自分で何がやりたいのかわからなくなっている主人公が、現状にしっくりこず「私の居場所はここではない」と何となく感じていながらも、自分なりに努力している姿にまず共感。彼女が努力もせずに、現状を不服に思っているなら、「しっかりやれ!」と言いたくなると思いますが、彼女は自分ができることは一生懸命やっているんですよね。だからこそ、「それなのになぜ?」と葛藤する気持ちも理解できます。将来の夢にそれなりに近いと客観的には思える位置にいるのに、本人がそう思えていないというところも印象的で、その原因は何なのかというのが、ウズベキスタンという日本と文化が全く違う、勝手がよくわからない国での彼女の行動に表れています。彼女はなるべく現地の人に絡まずに過ごそうとしていて、ただ恐れているようにも見えます。それは彼女自身が周囲から耳をふさいでしまっている状態、心を閉じている状態を投影していて、ウズベキスタンでのあらゆる経験を経て、彼女がどう変化していくのかが、本作の見どころとなっています。主人公が一人で町に繰り出すシーンがいくつもあり、あの警戒心バリバリな感じは一人旅をしたことがある人には身に覚えがあるはずで、スリリングだからこその旅の醍醐味も描かれている点で、臨場感も抜群です。前田敦子の演技が素晴らしく、歌唱力を発揮する場面もあって、すっかり良い女優さんになったなあと実感できるはず。「自分の居場所がない」「自分の能力を発揮できる場所がない」と自分で決めつけて行き詰まっている人は、自分が本当は何を失ってしまったのかを見つめ直す意味で、ぜひ観て欲しいと思います。
一人の女性が世界と、周囲と、自分と向き合うストーリーなので、ロマンチックなムードにはならないと思いますが、男女問わず共感できる内容なので、デートで観るのもアリだと思います。好きな人がやりたいことがあって諦めてはいないけれど、宙ぶらりんになっている状態で悩んでいたら、ぜひ誘ってあげてください。あなた自身がそういう状態の場合も、好きな人と観に行って、自分の本当の気持ちを打ち明けると、何か突破口が見えてくるかも知れません。
馴染みの薄い国に行くことで、思わぬ事態に遭遇し、それが開眼するきっかけとなる旅の醍醐味を描いた物語です。旅そのものでこういう体験をしたいと思った人は、ぜひ旅に出てみて欲しいと思いますが、本作は旅という表現を使って、新しい世界、知らない世界に飛び込む人がどんな風になるのかを描いていて、恐れずに受け入れて、そこでやれることをやるべきだというメッセージを感じさせます。自分が思っている範囲だけで努力をしているつもりになっていても、頭打ちになることがあります。もっと周囲に耳を傾け、心を開くことで前進できるかも知れないという勇気をもらえるストーリーなので、悩める若者達にこそ観て欲しいです。
『旅のおわり世界のはじまり』
2019年6月14日より全国公開
東京テアトル
公式サイト
©2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
TEXT by Myson