REVIEW
2024年度サンダンス映画祭のワールドシネマ・ドキュメンタリー部門で審査員大賞を受賞した本作は、都会の喧騒を離れ、自然に囲まれながら暮らす家族の日常を追ったドキュメンタリーです。登場する家族は、ノルウェー人の写真家、マリア・グロース・ヴァトネ(1978-2019)と、イギリス人のニック・ペイン、長女ロンニャ、次女フレイヤ、長男ファルク、次男ウルヴの4人の子ども達です。彼等はノルウェーの森で小さな農場を営みながら、自給自足に近い状態で生活をしています。だから自然豊かな風景のもと、最初はほのぼのとした日々を映したシーンから始まります。でも、家族に悲しい出来事が訪れます。

母マリアと父ニックは、子育てで大切にしたいことを話し合い、自然の中で暮らすことを選びました。そして、家族で一緒に過ごす時間を大切にするため、子ども達は学校に行かず、ホームスクーリングという選択をとっています。そんななか、マリアが病に倒れ、家族は大きな喪失を経験します。本作はマリアが病にかかる前から撮影されていて、マリアがいなくなった後も撮影が続けられています。家族の日常がありのままに描かれている点で、どうやって撮ったのか皆さん気になるところでしょう。

シルエ・エヴェンスモ・ヤコブセン監督は本作の背景について、「今から10年ほど前、私自身が子どもを持つことを考え始めた頃、友人からマリアのブログ『wild+free』を薦められて読んだのがきっかけです。家族の日常を写した写真の素晴らしさに驚くとともに、競争社会からの脱却や自然と調和した暮らし、ホームスクーリングといった人生の選択に関して、いい時と悪い時の両方を真摯に綴った文章に惹かれました」と述べています(映画公式資料)。

ただ、マリアがいなくなった後、ニックは撮影を受けるか悩んだそうで、「撮影は僕たちにとってとてもチャレンジングなもので、承諾したことを後悔したことも何度もあった。僕はあまり目立つことをしない性格で、人生で最も辛く混沌とした時期に誰かがカメラを持って付きまとってくるというのは、控えめに言っても楽なことではなかった。子供たちは終始、勇敢で忍耐強く、快活で素晴らしい姿勢だった」と振り返っています(映画公式資料)。一家の素顔が撮れているのは、一家の寛大さと物事を前向きに捉える姿勢、監督達クルーの相当な配慮と工夫があったからだとわかります。撮影クルーは監督を含めて最大2人とし、「繊細な場面を中心に約6割」は監督だけで撮影したそうです。監督はカメラなしでも長い時間、彼等と一緒に過ごし、被写体としてではなく人間としての彼等を知りたいという気持ちを理解してもらえたと話しています(映画公式資料)。

マリアがいなくなったことを家族それぞれがどう受けとめていて、どう乗り越えようとしているかが丁寧に映し出されています。特に長女のロンニャは、マリアの最初の夫との間にできた娘で、他のきょうだいとの関係性から、相手を思うがゆえに余計に悩む姿が印象的です。フレイヤは父や弟達を守るような立場で踏ん張っているのが伝わってきます。そして、ニックがマリアと決めたことと実際の生活の維持の狭間で悩んでいるなか、遺された家族に「ただ、愛を選ぶこと」と、マリアが語りかけているようで、タイトルの意味が優しく心に響きます。子ども達の無邪気な姿にもマリアの愛がいつまでもそばにあることを感じられる1作です。ぜひ彼等の姿から勇気と愛を受け取ってください。
デート向き映画判定

夫婦、もしくは一生のパートナーになると考えている相手と観て欲しい1作です。2人でどんな人生を歩みたいか、そして子どもがいたとしたらどんな風に育って欲しいかを考えるきっかけになると思います。人生観をわざわざ話す機会は意外に日常で出てこないと思うので、本作の感想を話すところから各々の考えを共有できると良いですね。
キッズ&ティーン向き映画判定

皆さんと同じ世代の子ども達が複数出てくるので、誰かしらの視点で観られると思います。日本ではホームスクーリングに馴染みが薄いでしょうから、フレイヤ、ファルク、ウルヴ3人の生活ぶりが珍しく思えるかもしれません。でも本作を観ると、他の国との違いや、いろいろな選択があると知ることができると同時に、自分にとっては何が学校に通う意義となっているのか考えるきっかけにできそうです。

『ただ、愛を選ぶこと』
2025年4月25日より全国順次公開
S・D・P
公式サイト
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©︎ A5 Film AS 2024
TEXT by Myson
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情報は2025年4月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。