REVIEW

TAR/ター【レビュー】

  • follow us in feedly
  • RSS
映画『TAR/ター』ケイト・ブランシェット

音楽家、芸術家とはどんな存在なのか。複数のテーマが複雑に絡み合う物語によって、芸術家の存在は見事なまでに玉虫色に映ります。これは、有名指揮者として活躍し、自信に満ち溢れていたリディア(ケイト・ブランシェット)の生活が、ある出来事をきっかけに一変していく物語。本作には、ジェンダー、ハラスメント、世代交代、ネット社会といったさまざまなテーマが込められていて、そこからどんなメッセージを受け取るかは、観る側の解釈に委ねられています。なので、どの視点で観るかによって、芸術家の辛さと見るのか、傲慢さと見るのか、真逆の解釈になり得る、多面的な作品となっています。
あくまで私の解釈ですが、大きなテーマの1つは、芸術作品(もしくは芸術家の功績)と芸術家自身は切り離して評価されるべきか、はたまた切り離して考えることは無理なのかということです。つまり、芸術家が悪しき行いをした場合、作品まで否定されるべきなのかという問いが本作には描かれています。また、栄光の中にいると、周囲の人間の態度が、尊敬や羨望からくるものなのか、野心を伴う下心なのか、恋愛的な好意なのか見分けられなくなる危うさを感じます。同時に自分は絶対的な存在であるという無意識な過信が、人を狂わせていく怖さも見てとれます。
本作の舞台は音楽業界ですが、最近映画業界のセクハラ、パワハラ問題が次々と明るみに出たことも頭をよぎります。そのなかで、トッド・フィールド監督はどんな思いで本作を作ったのかとても気になります。そして、何といってもケイト・ブランシェットの演技が見事!本作の彼女の演技も見逃して欲しくありません。考えさせられるところが大いにある内容です。映画ファンはもちろんのこと、芸術を愛する方、芸術家を志す方、人気商売をしたい方、権威のある立場を目指す方など、広く観ていただきたい1作です。

デート向き映画判定
映画『TAR/ター』ケイト・ブランシェット/ニーナ・ホス

ざわつく恋愛関係も描かれていて、デートで観るよりも、1人でじっくり観るほうが向いている作品だと思います。ただし、教職や管理職、人気商売をしている方など、周囲の人に強い影響力を持つ立場にある方とっては、自分を客観視できる要素がたくさんあります。パートナーや親しい人と一緒に観て、ぶっちゃけ自分は大丈夫なのか聞いてみるのもアリかもしれません。

キッズ&ティーン向き映画判定
映画『TAR/ター』ケイト・ブランシェット

周囲から憧れの存在として見られている人物にもさまざまな面があることがわかるストーリーです。皆さんはこれから大きくなるにつれて、いろいろな大人に出会っていきます。肩書きや人気だけでは、その人を理解することはできないし、皆人間なので出会う状況やタイミングによって、同じ人物でも全く異なる人物のように振る舞うこともありえます。本作はそんなことを教えてくれる作品です。主人公が本当はどんな人物なのかは、皆さん自身が答えを出してください。どんな人間だと捉えて、自分ならどう接するか考えてみてください。

映画『TAR/ター』ケイト・ブランシェット

『TAR/ター』
2023年5月12日より全国公開
ギャガ
公式サイト

© 2022 FOCUS FEATURES LLC.

TEXT by Myson

関連記事
  • follow us in feedly
  • RSS

新着記事

映画『マイ・インターン』アン・ハサウェイ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外40代編】総合

今回は、海外40代(1975年から1984生まれ)のイイ俳優の中から、昨今活躍が目覚ましい方を編集部の独断で80名選抜し、正式部員の皆さんに投票していただきました。今回はどんな結果になったのでしょうか?

映画『ザ・バイクライダーズ』オースティン・バトラー ザ・バイクライダーズ【レビュー】

“バイクライダー=バイク乗り”とは、どんな人物をいうのでしょうか…

Netflix映画『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』マイケル・ジョーダン 心が弾む!バスケットボール映画特集

バスケットボール人気が出てきているのを感じる昨今。…今回は、バスケットボールにちなんだ作品をズラリとご紹介します。

映画『リュミエール!リュミエール!』 リュミエール!リュミエール!【レビュー】

映画の始まりが述べられる際、トーマス・エジソンと、リュミエール兄弟(ルイとオーギュスト)の名前がよく挙がります…

映画『デューン 砂の惑星PART2』ゼンデイヤ ゼンデイヤ【ギャラリー/出演作一覧】

1996年9月1日生まれ。アメリカ出身。

映画『チネチッタで会いましょう』ナンニ・モレッティ/マチュー・アマルリック チネチッタで会いましょう【レビュー】

タイトルに入っている“チネチッタ”とは…

Netflixドラマ『さよならのつづき』有村架純/坂口健太郎 ポッドキャスト【だからワタシ達は映画が好き22】2024年11月後半「気になる映画とオススメ映画」

今回は、2024年11月後半に劇場公開される邦画、洋画、Netflixの最新ドラマについてしゃべっています。

映画『Back to Black エイミーのすべて』マリサ・アベラ Back to Black エイミーのすべて【レビュー】

類稀な才能を持つ歌姫エイミー・ワインハウスは、2011年7月、27歳の若さで逝去…

映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』川栄李奈さんインタビュー 『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』川栄李奈さんインタビュー

真面目な公務員と天才詐欺師チームが脱税王との一大バトルを繰り広げるクライムエンタテインメント『アン…

映画『ドリーム・シナリオ』ニコラス・ケイジ ドリーム・シナリオ【レビュー】

ニコラス・ケイジ主演、『ミッドサマー』のアリ・アスターとA24が製作、さらに監督と脚本は『シック・オブ・マイセルフ』のクリストファー・ボルグリと聞けば、観ないわけには…

部活・イベント

  1. 【ARUARU海ドラDiner】サムライデザート(カップデザート)
  2. 【ARUARU海ドラDiner】トーキョー女子映画部 × Mixalive TOKYO × SHIDAX
  3. 【ARUARU海ドラDiner】サポーター集会:パンチボール(パーティサイズ)
  4. 【ARUARU海ドラDiner】プレオープン
  5. 「ARUARU海ドラDiner」202303トークゲスト集合

本サイト内の広告について

本サイトにはアフィリエイト広告バナーやリンクが含まれます。

おすすめ記事

映画『マイ・インターン』アン・ハサウェイ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【海外40代編】総合

今回は、海外40代(1975年から1984生まれ)のイイ俳優の中から、昨今活躍が目覚ましい方を編集部の独断で80名選抜し、正式部員の皆さんに投票していただきました。今回はどんな結果になったのでしょうか?

映画『淪落の人』アンソニー・ウォン/クリセル・コンサンジ 映画好きが推すとっておきの映画を紹介【名作掘り起こし隊】Vol.2

このコーナーでは、映画業界を応援する活動として、埋もれた名作に再び光を当てるべく、正式部員の皆さんから寄せられた名作をご紹介していきます。

映画『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』ムロツヨシ 映画好きが推すイイ俳優ランキング【国内40代編】個性部門

個性豊かな俳優が揃うなか、今回はどの俳優が上位にランクインしたのでしょうか?

REVIEW

  1. 映画『ザ・バイクライダーズ』オースティン・バトラー
  2. 映画『リュミエール!リュミエール!』
  3. 映画『チネチッタで会いましょう』ナンニ・モレッティ/マチュー・アマルリック
  4. 映画『Back to Black エイミーのすべて』マリサ・アベラ
  5. 映画『ドリーム・シナリオ』ニコラス・ケイジ

PRESENT

  1. 映画『バグダッド・カフェ 4Kレストア』マリアンネ・ゼーゲブレヒト/CCH・パウンダー
  2. 映画『型破りな教室』エウヘニオ・デルベス
  3. トーキョー女子映画部ロゴ
    プレゼント

PAGE TOP