なんて可愛らしい映画なんでしょうか。人間は愚かですが、だからこそ可愛げがある、そんな風に思わせてくれる優しさのある作品です。本作は、パレスチナ系イスラエル人のエリア・スレイマン監督が、本人として主演していて、イエスの故郷とされるナザレから、パリ、ニューヨークと旅をして、ナザレに戻ってくる様子を描いています(ドキュメンタリーではありません)。スレイマン監督は劇中でほぼずっと無言で、各地で町を散歩しながら、ただただ人々を見つめています。その目に映るものとそれに対する監督のリアクションを映し出しているだけなのですが、さまざまな人間の一面が捉えられていて、何でもないように見える日常もドラマチックに見えます。そしてそこにいる人間達の滑稽さを無言で見つめるスレイマン監督の姿や表情がすごくシュールで、独特な世界観を生んでいます。スレイマン監督は現代のチャップリンと言われているようですが、まさに切なさと笑いが入り混じる、社会風刺が利いた作品となっていて、それも頷けます。ガエル・ガルシア・ベルナルも本人として登場し、作品のアクセントとなっているのでご注目を。
スレイマン監督が、ナザレ、パリ、ニューヨークの町を散歩するので、一緒に旅をしているような感覚を味わえます。恋愛要素は全くなく、ロマンチックな展開もないし、派手な展開もありませんが、不思議と監督と同じ目線でじ〜っと世の中を見てしまうおもしろさがあるので、逆に緊張しちゃう初デートに向いているのではないでしょうか。「今日は映画を観るぞ!」と張り切っている時よりも、デートの途中でふらっと立ち寄って観てみるくらいのテンションのほうが合っているかもしれません。
物語そのものにはあまり起伏がないので、キッズや映画を観慣れていないティーンの皆さんにとっては、まだ捉え難い部分があるかもしれません。でも、不意に可笑しなことが起こり、クスッと笑えるシーンも豊富なので、スレイマン監督と一緒に散歩する気分で先入観なく観てもらえたらと思います。私達の日常は淡々過ぎているように見えて、ゆっくりじっくり眺めて見ると、「あれ?」と思うことがたくさんあることも教えてくれます。人間の性(さが)にさまざまな角度からフォーカスしているので、ぜひ本作で人間ウォッチングを楽しんでください。
『天国にちがいない』
2021年1月29日より全国順次公開
アルバトロス・フィルム、クロックワークス
公式サイト
© 2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION
TEXT by Myson