ある意味ファンタジーであり、喜劇であり、悲劇。結局何を観ていたんだろうという不思議な感覚にさせられますが、それこそが本作に没入できた証でしょう。本作は、テリー・ギリアム監督が構想30年かけ、9回の頓挫を経て完成させた作品。アダム・ドライバーが演じる主人公トビーを観ていると、映画作りに没頭し、時には迷い、時には逃げ出したくなるような、作り手の苦悩が投影されているようにも感じます。本作が完成されるまでの出来事が公式サイトに載っているので、ぜひ見て頂きたいですが、本当に呪われていると思われるくらい、大変な思いを繰り返しています。それでも作り上げた執念が、作品の中で狂気となって昇華されています。また、ジョナサン・プライスが演じるドン・キホーテや村の少女など、トビーがきっかけで映画の世界に触れたことで、幸か不幸か、目覚めたのか夢想に入ってしまったのかわからない人生を送ることになったキャラクター達を見ていると、映画が持つ魅力と毒性を感じます。でも、この感覚って映画好きなら共感できるはず。皆さんもぜひこの世界に飛び込んでください。
好みが分かれそうな作品なので、映画好きカップルなら良いですが、普段映画をあまり観ない人だと反応がわかりません。ただ小説が好きで、ミゲル・デ・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」にも興味があるなら、一緒に観るのもアリでしょう。ほか、映画を観て語りたいタイプの人となら、「結局これってどういうこと?」となっても、それも含めて観終わった後に会話が楽しめそうです。
お店の名前で“ドン・キホーテ”はよく知られるようになりましたが、もともとは小説の名前、その作品に出てくる登場人物であることを本作を機に知るのも良いでしょう。本作は原作通りではありませんが、本作を気に入ったら、原作も読んで比較してみてはどうでしょうか?年齢に寄ってはまだ難しいかも知れませんが、映画や演劇など、いろいろな作品の原作となっているので、興味の範囲を広げるきっかけになるかも知れません。
『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』
2020年1月24日より全国公開
ショウゲート
公式サイト
TEXT by Myson
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