「こ、これは一体…!?」という驚きというか混乱というか困惑というか、何とも言えない感覚が最初から最後までノンストップの衝撃作。主人公は、子どもの頃に交通事故で大きな怪我を負い、頭にチタンプレートが埋められているアレクシア(アガト・ルセル)です。チタンプレートを埋められた彼女にはさっそくある変化が見えるのですが、ここから既に奇想天外な展開が始まっているので、最初から丸ごと楽しめるようにここでは伏せておきます。私と同じように何も知らずに観たほうが最大限に楽しめるはずなので、ぜひ前情報を入れずに観てください。ただ一点だけ、妊婦さんは今観ないでください。
この後は私の解釈をネタバレしないように書いていますが、できれば観終わってからお読みください。
本作は豪快で衝撃的なバイオレンスシーンから、ホラー、スリラーに分類されると思います。ただ根底には、父性、母性が1つのテーマとしてあるように思います。アレクシアと実の父との関係性、後に登場するヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)との関係性を比較すると、アレクシアが父という存在に飢えていたことが伝わってきます。また劇中で実母の存在感があまりにも感じられないところも、印象的な描写の1つで、彼女は子どもの立場で親の愛を感じる機会が乏しく、父性や母性に触れる機会にも恵まれなかったと考えられます。また彼女の閉ざされた心や凶暴性は、チタンという素材の硬さや車で比喩されているように感じられ、同時に深く傷つけられた心とそこから生まれる凶暴性はもしかしたら受け継がれてしまう恐れがあることがラストでほのめかされているようにも見えます。一方、彼女が新たに見つけた人間関係の中では、彼女と同じ血筋を持った者でも、彼女とは違った運命になり得る可能性があることを示唆しているようにも思えました。なので、解釈のしようによっては、悲観的にも、前向きにも捉えられるラストなのではないでしょうか。
観客は知らぬ間に未曾有の世界に放り込まれ、ラストで一瞬放心状態にさせられるような強烈な作品ですが、パワフルな描写の裏側に繊細なメッセージが感じられ、それをこのような表現で映像化するとは、ジュリア・デュクルノー監督、お見事です!そして本作が長編映画デビュー作とは思えない気迫満点の演技を披露しているアガト・ルセルは、良い意味でキャラクターに負けない怪物級の俳優だと言えます。映画好きの皆さんにはぜひチェックいただきたい1作です。
本作には強烈なバイオレンスシーンがあり、目を覆いたくなるレベルで特に女性には辛いシーンもあるので、デートには不向きです(苦笑)。作品そのものは見応えがあり、映画好き同士なら鑑賞後にいろいろ語れると思います。友達と観るか、1人でじっくり観るほうが良いでしょう。
15歳以上の方は観られますが、刺激が強いので、ある程度耐性がついてから観たほうが良さそうです。主人公は大人になっていますが、どこか成長し切れていないところ、新たな出会いによって彼女の中で欠けているものが少しずつ埋まっていく様子、そして彼女が抱える孤独感は、年齢を問わず誰にでも何かしら感じるものがあると思います。観ている最中はジェットコースターに乗っている感覚を味わえて、観終わった後はいろいろな解釈が頭を巡るおもしろさがあるので、興味が湧いたら観てみてください。
『TITANE/チタン』
2022年4月1日より全国公開
R-15+
ギャガ
公式サイト
© KAZAK PRODUCTIONS –FRAKAS PRODUCTIONS –ARTE FRANCE CINEMA –VOO 2020
TEXT by Myson