重松清によるベストセラー「とんび」を映画化した本作は、妻に先立たれた男と一人息子の物語です。息子のアキラ(北村匠海)が幼い頃に、不慮の事故で妻を亡くしたヤス(阿部寛)は、妻ではなく自分が生き残ったことへの罪悪感と、一人でアキラを育てることに不安を抱えています。でも、本作はヤスが孤独に子育てをする苦労話ではなく、彼の周りにいる人々、ひいては地域全体で一緒にアキラを育てようとする姿が印象的に描かれたストーリーでとても心が温まります。心に刺さるシーンはいろいろ出てくるのですが、個人的に一番心を掴まれたのは、麿赤兒が演じる海雲とヤス、アキラ、照雲(安田顕)のシーン。このシーンの舞台は昭和中期ですが、時代を経た現代でこそ望まれる社会の在り方が見えるシーンとなっています。
また、ヤスとアキラはもちろん、海雲、照雲、たえ子(薬師丸ひろ子)といった脇を固めるキャラクターがとても魅力的に描かれている点も本作のみどころです。それぞれのキャラクターの優しさや愛が作品に溢れていて、彼等の日常は観る側にとって身近に感じるものだからこそ、この世界観に没入でき、温かさに包まれるような感覚を味わえるのだと思います。豪華キャストの他、監督は瀬々敬久、脚本は港岳彦が担当していて、実力派揃いの作品という点でも映画ファンの期待に応えられる作品と言えるのではないでしょうか。
ロマンチックな展開よりも、カップルが交際、結婚と発展していく上でのリアルな部分が描かれています。これからお互いの家族に挨拶に行くという方は特に親近感が湧く内容です。反応は親次第なので参考にするという感じとは異なりますが、リハーサルをする気分で観てみるのも良いでしょう。また、本作を観ると自然に家族や幼い頃の思い出などを話したくなるので、お互いをもっと知りたいカップルも一緒に観ると良さそうです。
特に中学生以上の方は自我が芽生えてきて、親に反抗的な態度を取ってしまうことも出てくると思いますが、本作で親の知られざる思いを客観的に観ることができるでしょう。ティーンの皆さんは敢えて親子で観て、鑑賞後に家族のアルバムを一緒に観ながら思い出話をするのも良いですね。これを機に大きくなるまで敢えて聞かされていなかったことなどを親が話してくれるかもしれません。
『とんび』
2022年4月8日より全国公開
KADOKAWA、イオンエンターテイメント
公式サイト
©2022 『とんび』 製作委員会
TEXT by Myson