ルーマニア出身の女性監督アディナ・ピンティリエが手掛けた初めての長編映画となる本作が、世界三大映画祭の1つとされるベルリン国際映画祭2018で金熊賞(最高賞)と最優秀新人作品賞をW受賞し、話題をさらいました。話題になったのは、有名監督の名作が競合するなかで無名監督の作品が受賞したことだけではなく、その内容にも理由があると思います。まず構成がユニークで、フィクションとノンフィクションが混在しています。物語は、人に触れられると拒否反応を起こしてしまう精神的障がいを抱えた主人公ローラが、さまざまな人に出会い、心の問題を解消しようと試みる様子を、映画制作クルーが撮影しているというもの。俳優のローラ・ベンソン、トーマス・レマルキス、イルメナ・チチコワは役を演じているようですが、脊髄性筋萎縮症(SMA)を患うクリスチャンやそのパートナー、グリット、トランスジェンダーでありセックスワーカーと性的マイノリティのために活動するハンナや、エロティックなサービスとともにカウンセリングを行うシーニーなどは本人のまま登場しています。なのでフィクションのドラマの中に、現実を映したドキュメンタリーがミックスされたような構成になっていて、ドキュメンタリーだったらここまで逆に映せないだろうというシーンもあれば、フィクションだったら伝わりづらい部分は現実をそのまま描いている点で、観たこともないような世界に入り込めます。
そして、テーマは“性”についてであり、“人が肌を触れあうこと”が何を意味しているかということに端を発し、人間の深い部分に迫っていきます。こういうテーマの映画は、性的欲求、ジェンダーという部分がセンセーショナルなだけにどうしても際立ってしまいますが、本作が一番伝えたいであろうことは最後の監督の言葉に集約されています。まさに心と身体のお話であり、愛や人間の感情の話です。いろいろな観方があると思いますが、人との交流が苦手な人、誰にも言えない恋愛の悩みがある人にもオススメです。
“性”がテーマなので、ヌードは当然出てくるし、局部も包み隠さず映っているシーンが多数あります。アブノーマルな世界が映されたシーンもあるので、デートで観るのは少々気まずいとは思いますが、人間をありのままに映しているとも言えるので、実際は変ないやらしさはありません。性についてざっくばらんに語れるカップルなら一緒に観ても良さそうです。
性教育的な内容も感じる作品ですが、“大人向けの性教育”という感じで、そもそもR-18なので、大きくなってから観てください。18歳以上の人は、だんだん恋愛関係でも深い間柄になっていく可能性が増えると思います。でも、そういう話はあまり人と共有できないし、1人で抱えてしまうことも多いはず。本作で映し出される問題とリンクするわけではなくても、「人と人が通じ合うってこういうことかな」とか、「表面的な問題からは想像できない心の問題があるのかな」ということは知ることができるので、興味があれば観てみてください。
『タッチ・ミー・ノット~ローラと秘密のカウンセリング〜』
2020年7月4日より全国順次公開
R-18+
ニコニコフィルム
公式サイト
©Touch Me Not -Adina Pintilie
TEXT by Myson