この物語には2種類の怖さがあり、1つは透明人間にまでなって主人公セシリアを追ってくるエイドリアンという男の存在です。物語の序盤でまず彼の暴力性を表現するシーンがシンプルかつストレートにわかるように描かれ、その後、彼が透明人間になった時「あの強い腕力の男が姿も見せないまま暴力を振るってきたら太刀打ちできない」ということに説得力を与えています。でも彼の本当の怖さは、腕力ではなく、狡猾で頭が良く、心理的に人を追い詰めることで相手を操る力にあります。彼はセシリアを取り戻すために、巧妙な手口を使い、セシリアが精神的に異常だと周囲に思わせようとさまざまな罠を仕組んできます。透明人間なんて誰も信じないので、セシリアの身近で起こるトラブルは、周囲からすれば彼女が起こしたようにしか見えません。そうやって、どんどんとセシリアは孤立し、そこにいないはずのエイドリアンの仕業だと必死に訴えるほど、常軌を逸しているように見られてしまう様子がとても恐ろしいのです。もうほんとにエイドリアンがやりたい放題なので、最初から最後まで緊張感が切れることがありませんが、最後の最後はスカッとしますので、頑張って完走してください!
そしてやっぱり気になるのは、透明人間はどういう仕組みで透明になってるのかということ。過去に透明人間が登場する映画は何作かあって、1つはケヴィン・ベーコンの『インビジブル』が浮かびますが、本作の透明人間の仕組みはまたあれとは違うように思いました。
ここから、本作の透明人間の構造のお話をするので、何も知りたくない方は観終わってから読んでください。
公式資料を見てみると、不可視性の技術はすでに存在しているが、まだ小規模の物でしか実現できておらず、特殊効果チームは映画的ではないと判断し、代わりに光学技術に基づいたアイデアを思いついたとありました。こうして、特殊効果スタジオ、オッド・スタジオは本作のために見事な透明スーツを生み出したとされていますが、構造としては「エイドリアンのスーツは何百もの小さなカメラでできていて、すべてのカメラで周辺の映像を撮影しつつ、後ろ側のカメラで撮影したものをホログラムで前側に映し出すことができる。(中略)スーツを着ている人物の背景を正面に映し出すことで、その人物は透明人間になることができる(公式資料から抜粋」とのことです。SF映画に登場する最新技術が、何年も経って現実社会に出現することはこれまでもあるので、近い将来実現するかも知れないですね。そう思うと一層リアリティが増して、「透明人間、怖っ!」となりますね。そして透明人間なので、音響で驚かされるシーンも印象的で、私は何度もイスから浮きました(笑)。それにしても、やっぱりブラムハウス・プロダクションズの映画はおもしろい!日本で知名度の高い俳優はあまり出ていませんが、ジェイソン・ブラムがプロデューサー、リー・ワネルが監督、エリザベス・モスが主演というだけで、映画ファンは十分期待できますよね。その期待を裏切らない本作のスリルをぜひ味わってください。
吊り橋効果が抜群なので、自然に2人の距離は縮まるでしょう。でも、どちらかが相手を束縛気味のカップル、若干ストーカーになりつつある関係の場合は、薄々「自分達もこんな関係じゃん」って思いながら観てしまい、不穏な空気になるでしょう。なので、心おきなく観たい人は友達と観てください。1人で観に行くのも良いですが、ドキッとする場面で自然に身体が反応したりして、観終わった後にいろいろ誰かとリアクションを報告したくなるので、複数名で観るほうが楽しいのではとは思います。
フランケンシュタイン、狼男に並び、透明人間もモンスターの代表格なので、キッズやティーンの皆さんこそ好きだろうなと思います。PG-12なので12歳未満の人は保護者と一緒に観てくださいということになりますが、親子で観て気まずいことはそれほどなさそうなので大丈夫でしょう。ただ、「ワオ!」となるホラー的シーンはあるので、耐えられる自信がないキッズは無理をせず大きくなってから観てください。中高生はその辺は大丈夫かなと思うので、ぜひ観て観てください。
『透明人間』
2020年7月10日より全国公開
PG-12
東宝東和
公式サイト
© 2020 Universal Pictures
TEXT by Myson