ロッカーに預けられた大金を巡って、人々の運命が交錯するストーリー。曽根圭介の著書「藁にもすがる獣たち」を原作に、短編やドキュメンタリーで経験を積んだキム・ヨンフン監督が映画化。キム・ヨンフン監督は本作が長編デビュー作ですが、見事な演出をしています。
登場人物は職業や環境がバラバラですが、お金に困っているというのは共通しています。始めはそれぞれの日常が映し出され、皆どんどん切羽詰まった状況に陥っていきます。それが徐々にロッカーに置かれた大金にまつわるエピソードに繋がっていき、クライッマックスでは二転三転する展開が見どころとなっています。悲壮感が漂うキャラクター、欲望にまみれたキャラクター、地道に生きながらも窮地に追い込まれて暴走するキャラクターなど、いろいろなタイプがいるからこそ、読めない展開になっていて、窮地に立たされているからこそどんな人間でも何をしでかすかわからないスリルが満載です。
チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウなど実力派俳優の演技も見もの。後半に入ると、緊張感がグッと増して、あるキャストの怪演が観る者を一層惹きつけます。クライマックスに近づくにつれて怖い展開も出てきて、韓国映画独特のパンチ力も感じます。クライマックスの疾走感とオチも良い感じのコントラストになっていて、ある種の爽快感が味わえる点でジェットコースタームービーともいえそうです。
本作で出てくる男女関係はほとんどがドロドロ、サバサバしていて、ロマンチックなムードは期待できません(笑)。でも、テンポよく展開し、緩急が上手に入っているので途中で退屈することなく、緊張感が高まるシーンもビジュアルより音でリアルに演出されている分、誰でも観やすくなっています。映画を観終わった後は感想を言い合うも良し、さらっと次の予定に移っても良しなので、週末のデートのメニューの1つに加えるのもアリでしょう。
借金、DV、失踪、殺人など、テーマが物々しいので、キッズは大きくなってから観るほうがよいでしょう。韓国映画のテンションを味わうには良い作品なので、映画に目覚めた中高生は、韓国映画鑑賞デビューにぜひ観てみてください。原作は日本の小説なので、本を読むのが好きな人は、原作と映画で比較してみてもおもしろそうです。
『藁にもすがる獣たち』
2021年2月19日より全国公開
クロックワークス
公式サイト
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TEXT by Myson