物語の冒頭から、姉アリス(マリオン・コティヤール)と弟ルイ(メルヴィル・プポー)の異様な仲の悪さが印象付けられ、一気に物語に引き込まれます。そして、なぜそれほどまでお互いを避け続けるのか、謎に包まれたまま物語は展開します。一方で、憎み合っているはずのきょうだいの間に、愛があるようにも見えてきます。本作は、2人の間に流れる複雑な感情について、具体的な言葉で明らかにすることはないまでも、絶妙な空気感でリアルに表現しています。
ここからはあくまで私個人の解釈でネタバレを含みますので、鑑賞後にお読みください。
アリスとルイはある時まではとても仲が良かったこと、2人の間に明らかな変化があった出来事も明かされます。鍵はその出来事が2人の気持ちに何をもたらしたかです。彼等の両親の関係も鍵となります。両親の関係から想像して、2人はある時まで支え合っていたのでしょう。お互いがとても大切な存在で、芸術的な仕事をする2人はお互いに良い刺激を得ていたとも考えられます。それはきょうだいでありながら、少し恋人のような近さもあったかもしれません。でも、大人になると、きょうだいそれぞれの人生が見えてきます。お互いを手放すべき瞬間がやってきます。それがあの出来事だったのではないでしょうか。お互いの才能を妬んでいるようにも見えて、実はお互いの自立を確信した瞬間、ずっと一緒にはいられないと自覚した辛い瞬間だったのかもしれません。会えば、その複雑な感情と向き合わなければいけません。特別な思いがあるからこそ、2人は距離を置いたと同時に、避けられていることに寂しさと憎悪が膨らんだようにも見えます。
世の中には本当に仲の悪いきょうだいもいます。この2人も本当に仲が悪い可能性ももちろんあります。ただ、限られた2人のシーンには、愛情が溢れています。この見事なシーンを作った、マリオン・コティヤール、メルヴィル・プポーの名演、アルノー・デプレシャン監督の名演出をぜひご堪能ください。
観る方によって、アリスとルイの関係をどう捉えるかは違うでしょう。言葉では簡単に表せない2人の間の複雑な感情に似たものを感じた経験があっても、パートナーには説明づらいように思います。そうなると、ある意味ではデートで観るのは気まずいともいえます。1人でじっくり観るか、仲の良い幼馴染と観るのが良さそうですね。
大人になってから観るほうが、主人公達の心情にさまざまな想像を巡らせることができると思います。きょうだいのいるティーンの皆さんは、今の自分達とキャラクターを重ねてみて、数年後にまた観てみると、捉え方が変わるかもしれません。もし、今きょうだいと仲が悪ければ、話し合うのも難しいかもしれませんが、本作で自分達を客観視することで、少し心の硬さがほぐれそうです。
『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』
2023年9月15日より全国順次公開
PG-12
ムヴィオラ
公式サイト
©︎ 2022 Why Not Productions – Arte France Cinéma
TEXT by Myson
本ページの情報は2023年9月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。