テーマにもストーリーにもトリックにもジュリエット・ビノシュにも、すべてにおいて引き込まれました!原作はフランスの作家カミーユ・ロランスの同名小説で、ジュリエット・ビノシュが演じる主人公クレールが、心に大きな傷を負い、精神的に彷徨い、そして苦しみもがく様を描いています。20年連れ添った夫とは離婚し、若い恋人とも疎遠になったことで、孤独感を埋めようとしたクレールがSNSで架空の人物を作り、彼女になりすまします。途中までは想像できる展開なのですが、クレールがこの架空の人物としての人生にハマっていくほど、どんどん狂った方向に物事が進んでいきます。そんなクレールの心境を観る側も一緒に体感できる、ある意味ジェットコースター・ムービーで、クライマックスのたたみかけるような、二転三転するどんでん返しは、観る者を釘付けにするでしょう。
クレールはただ愛されたかっただけなのに、彼女が欲しいものに近づけば近づくほど、それが遠ざかっていくという皮肉な現実が残酷。でも、その本質に自分で気付かない限り、本当の幸せにはたどり着けないことを教えてくれます。美しい中年女性が、自分が失った若さに執着してしまう心境もとてもリアルですが、表面的な部分ではそこが問題に見えても、根本の心の問題は何なのかというところまで観ると、誰にでも通じる物語です。
男性の反応が読めないので、デートで観るとどちらに転ぶかわかりません。これはじっくり1人で観たいタイプの映画です。もしくは友達と観るほうが、気楽に観られる気がします。でも、クレールの気持ちは誰もが人生に一度は持つものなのではと考えると、お互いの孤独感を吐き出して、距離を縮めるきっかけにできるかも知れません。ただ、エッチなシーンが想像以上に多いので、ウブなカップルには不向きでしょう。
大人独特の複雑な感情を描いているので、キッズやティーンの皆さんにはまだピンとこないかも知れません。お母さんにもこういう一面があるのかも知れないと、子ども目線で想像するのも複雑な気持ちになりそうなので、成人してから観るくらいでも良いのではないでしょうか。
『私の知らないわたしの素顔』
2020年1月17日より全国順次公開
R-15+
クレストインターナショナル
公式サイト
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TEXT by Myson