31歳のみつ子(のん)の日常を通して描かれる職場での悩み、恋愛の悩みは普遍的で、世の女性は何かしら共感ポイントを見つけられると思います。みつ子は自分の頭の中のAと会話を繰り広げますが、日常のつぶやきから心の奥にあるダークな部分の吐露まであって、1人の女性がいかにいろいろな経験をし、それが彼女の行動にどう反映されているかがわかります。具体的に彼女がどんな経験をしてきたかは映画で観て頂くとして、31歳にもなれば嫌な事もそれなりに経験してきているので、トラウマになっていることがあったり、慎重になってしまう部分があったりと、アラサー女子のリアルな姿が描かれています。彼女の恋愛の行方にワクワクするだけでなく、胸が締め付けられるような感覚もリアルに体感できて、余計に感情移入しやすいでしょう。
そんな彼女から観て、先輩女子達がどう映っているのかも描かれていて、アラサーを卒業した女性にも興味深く観られると思います。同時に、先輩女子達が逞しく生きる姿はアラサー女子に希望を与えてくれる存在となっていることも伝わってきます。特に臼田あさ美が演じるノゾミさんとカーター(若林拓也)が良い味を出していて、彼等のやり取りにはツッコミを入れたくなりつつ微笑ましくて、肩の力を抜かせてくれます。
皐月(橋本愛)との友人関係も女子あるあるで、女性の人生がバラエティに富んでいて、だからこそ分かれ道が多いことを実感させられます。女子のわちゃわちゃしたやり取りにすごく親近感が湧いて観ていて楽しいだけでなく、何かに傷付いているのに自分をごまかしながらも不器用に生き、でも妥協しない主人公の姿に希望をもらえるストーリーです。
「私達のこの状況ってどんな関係?」「その態度、言葉は、本当はどういう意味?」という友達以上恋人未満の関係でよくあるシチュエーションが満載なので、恋愛関係に近づく一歩を踏み出せない人にとても参考になると思います。本作を観て1人で考えて頭の中を整理するのもアリですが、いっそのこと相手を誘って、ズバリ心の内を聞いてみるきっかけにするのも良いでしょう。交際中のカップルは、「こんな時もあったね」と思い出話に華を咲かせながら、初心に戻る良い機会にできると思います。
キッズやティーンの皆さんからすると、大人がなぜそんなに恋愛に足踏みするのかがピンとこない部分もあると思いますが、客観的に大人の頭の中ってこんなんなんだと逆に興味深く観られるかもしれません。でも、大人か子どもかに関わらない恋愛あるある要素も描かれているので、構えずに気楽に観て欲しいと思います。「大人は大変そうだけど、大人なりの生活もおもしろそうだな」と思ってもらえると嬉しいです。
『私をくいとめて』
2020年12月18日より全国公開
日活
公式サイト
©2020『私をくいとめて』製作委員会
TEXT by Myson